ヴォルテールのカンディードの価値
楽観主義に対する風刺
「カンディード」は、ヴォルテールが生きた18世紀の思想界を席巻していたライプニッツの楽観主義を痛烈に風刺した作品として知られています。ライプニッツは、「私たちの世界は、あらゆる可能な世界の中で最善の世界である」と説き、悪の存在や苦難の経験さえも神の摂理の一部として肯定的に捉えるよう主張しました。
ヴォルテールは、主人公カンディードを純粋で楽観的な青年として設定し、彼を過酷な現実世界に突き落とすことで、楽観主義の虚偽性を暴き出そうとします。カンディードは、旅の途中で戦争、宗教裁判、自然災害、人間の悪意など、さまざまな苦難に遭遇し、当初は師パングロスの教えである「すべてはこの世で最善である」という考えにしがみついていました。
しかし、あまりにも悲惨な現実を目の当たりにするにつれ、カンディードの楽観主義は次第に揺らいでいきます。特に、リスボン大地震の場面は、人間の無力さと自然の脅威をまざまざと見せつけ、楽観主義の限界を浮き彫りにしています。
啓蒙主義思想の反映
「カンディード」は、単なる楽観主義批判にとどまらず、当時の社会や制度に対する痛烈な風刺を込めています。作中には、戦争、宗教、貴族社会など、様々なテーマが取り上げられ、ヴォルテールは理性に基づいた批判的な思考を展開しています。
例えば、カンディードが巻き込まれる戦争は、国家間の利害や権力闘争によって引き起こされる無意味な殺戮として描かれています。また、宗教裁判や宗教戦争は、狂信的な信仰が引き起こす残虐性を告発するものであり、ヴォルテールの宗教に対する批判的な姿勢が明確に示されています。
さらに、作品に登場する貴族や聖職者は、特権階級の腐敗や堕落を象徴する存在として描かれています。彼らは、民衆を搾取し、贅沢な暮らしを享受しながら、道徳や倫理を欠いた偽善的な姿を露呈しています。
このような社会風刺を通して、ヴォルテールは、理性に基づいた社会改革の必要性を訴えています。彼は、迷信や偏見から脱却し、自由、平等、博愛といった啓蒙主義の理念に基づいた社会の実現を希求していました。