ヴィトゲンシュタインの哲学探求に影響を与えた本
ゴットロープ『形而上学的論考』
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは、20世紀で最も重要な哲学者の一人とされ、論理学、言語、心の哲学に多大な影響を与えました。彼の思想は複雑で多岐にわたりますが、彼に影響を与えた重要な人物やテキストを特定することは可能です。その中でも、ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツの『形而上学的論考』は、ヴィトゲンシュタインの哲学探求、特に初期の仕事に大きな影響を与えた一冊として挙げられます。
『形而上学的論考』は、ライプニッツが友人で弟子であるアルノー宛てに書いた書簡という形式を取っており、彼の哲学体系の簡潔な表現となっています。この書でライプニッツは、個体、実体、因果関係といった形而上学の基本的な問題を扱っています。彼は、世界はモナドと呼ばれる単純な実体から成り立っており、それぞれが独自の完全な概念を持ち、他のモナドから独立して存在していると主張しました。ライプニッツはまた、神の存在、自由意志と決定論の両立、人間の魂の不死性といった問題についても論じています。
ヴィトゲンシュタインは『形而上学的論考』を若い頃に読んで感銘を受け、彼のノートや講義録には、この本への言及が数多く見られます。彼を魅了したと考えられるのは、ライプニッツの論理的厳密さと、世界の本質に関する彼の形而上学的洞察でした。特に、ライプニッツの論理の概念、つまり思考を表現し、推論を行うための形式的なシステムは、言語の働きと世界の構造との関係を探求しようとするヴィトゲンシュタインの試みに大きな影響を与えました。
ヴィトゲンシュタインは、初期の傑作『論理哲学論考』の中で、言語と世界の関係を明らかにしようと試み、言語は現実の論理的形式を映し出す「世界の絵」として機能するという考えを展開しました。この考え方は、世界は論理的に構成されており、言語はその構造を反映するように設計されていると考えたライプニッツの影響を強く受けています。
さらに、ヴィトゲンシュタインが『論理哲学論考』で提示した「意味は使用である」というテーゼは、ライプニッツの思想との関連性も見られます。ライプニッツは、言語の意味は、それがどのように使用されるか、つまりそれがどのような推論や思考に貢献するかによって決定されると主張しました。ヴィトゲンシュタインも同様に、言葉の意味は、それが使用される文脈、つまり言語ゲームの中で決定されると考えました。
ただし、ヴィトゲンシュタインはライプニッツの思想をそのまま受け入れたわけではありません。彼は、ライプニッツの体系にはいくつかの問題点があると批判しており、特に、モナドの概念や、この世界が可能な限り最善の世界であるというライプニッツの主張に異議を唱えました。しかし、ヴィトゲンシュタインがライプニッツの哲学から多大な影響を受け、彼の思想がヴィトゲンシュタイン自身の哲学の発展に重要な役割を果たしたことは間違いありません。
結論として、『形而上学的論考』は、ヴィトゲンシュタインの哲学探求、特に言語と世界、意味と使用の関係に関する彼の初期の思想に大きな影響を与えたと言えるでしょう。ライプニッツの論理的厳密さ、形而上学的洞察、言語に関する見解は、ヴィトゲンシュタイン自身の哲学的立場を形成する上で重要な役割を果たしました。