## ワルラスの純粋経済学要論の思索
### ワルラスの試みとは?
レオン・ワルラスは、「純粋経済学要論」(Éléments d’économie politique pure)において、経済学を物理学のような自然科学に倣い、数学を用いて客観的な法則性を明らかにすることを目指しました。これは、当時の経済学が道徳哲学や歴史分析の色濃い分野であったことを考えると、非常に画期的な試みでした。
### 一般均衡理論の構築へ向けて
ワルラスの中心的な業績は、需要と供給が相互に影響し合いながら、全ての市場において同時に均衡が成立する状態、すなわち「一般均衡」の概念を提示し、そのメカニズムを数学的に説明しようと試みたことです。
彼は、個々の市場における需要と供給の関係を分析するだけでなく、複数の市場が相互に連関していることを重視し、経済全体を包括的に捉える枠組みを提示しました。具体的には、各財の需要は自身の価格だけでなく、他の財の価格や消費者の所得にも影響を受けることを示し、さらに、生産要素の市場も含めて、全ての市場が相互に依存し合っていることを明らかにしました。
### 数学的モデルと限界革命の影響
ワルラスは、一般均衡の概念を説明するために、連立方程式を用いた数学的モデルを駆使しました。これは、経済現象を抽象化し、単純化することで、より明確に分析しようとする試みでした。
彼の分析は、同時期にイギリスで発展していた限界効用理論の影響を受けています。ワルラスは、財の価値は、その財の限界効用によって決定されると考え、需要曲線を導出する際に、限界効用の概念を用いています。
### 「ワルラスの競売人」と均衡達成プロセスへの疑問
ワルラスは、一般均衡の状態がどのようにして達成されるのかを説明するために、「ワルラスの競売人」と呼ばれる仮想的な存在を導入しました。競売人は、市場参加者の需要と供給の情報に基づいて、価格を調整し、全ての市場で均衡が成立する状態へと導きます。
しかし、現実の経済には、このような全知全能の競売人は存在しません。そのため、ワルラスの均衡達成プロセスは、現実の経済メカニズムを十分に反映しているとは言い難いという批判もあります。
### ワルラスの功績と限界:現代経済学への影響
「純粋経済学要論」は、今日のミクロ経済学、特に一般均衡理論の基礎を築いた重要な著作として評価されています。ワルラスの試みは、経済学をより科学的な方向へ進展させ、客観的な分析を可能にする道を開いたと言えるでしょう。
しかし一方で、彼の理論は、現実の経済を過度に単純化しているという批判もあります。特に、情報の不完全性、市場の失敗、制度の影響など、現実の経済において重要な要素が無視されているという指摘は、今日においても重要な論点となっています.