Skip to content Skip to footer

ワルラスの純粋経済学要論の対極

ワルラスの純粋経済学要論の対極

ワルラス経済学と歴史学派

レオン・ワルラスの主著『純粋経済学要論』(Éléments d’économie politique pure, 1874-7) は、経済現象を需要と供給の均衡によって数学的に説明しようとする、いわゆる限界革命の先駆けとなった書物として知られています。その後のミクロ経済学、ひいては近代経済学全体に多大な影響を与えた金字塔ですが、その誕生当初から、ワルラスの試みに対する批判が存在しなかったわけではありません。

ドイツ歴史学派の主張

とりわけ有名なのは、19世紀後半のドイツを中心に興隆したドイツ歴史学派の経済学者たちによる批判です。彼らは、ワルラスが前提とする「経済人」像や完全競争市場といった仮説は現実経済と乖離しており、数学を用いた抽象的なモデルによって経済現象の本質を捉えることはできないと主張しました。

歴史学派は、経済現象を歴史的、制度的な文脈の中で理解することの重要性を強調しました。彼らによれば、経済法則は時代や場所を超えて普遍的に成立するものではなく、特定の歴史的条件の下で形成された社会制度や文化、慣習などによって規定されるものだからです。

代表的な論者:グスタフ・フォン・シュモラー

歴史学派を代表する経済学者の一人であるグスタフ・フォン・シュモラーは、ワルラスのような演繹的な方法ではなく、歴史的な事実の積み重ねに基づく帰納的な方法によって経済学を構築することを主張しました。彼は、膨大な歴史資料を分析することによって、具体的な経済現象の背後にある因果関係を明らかにしようとしました。

歴史学派の経済学方法論

歴史学派は、経済学を「歴史的・倫理的な科学」と捉え、社会の進歩と福祉の向上に貢献することを目指しました。彼らは、自由放任主義的な政策を批判し、国家による積極的な介入を正当化する根拠を歴史の中に探求しました。

ワルラス経済学との対比

ワルラスの『純粋経済学要論』とドイツ歴史学派の著作群は、経済学における方法論の対立を象徴するものとして、しばしば対比的に論じられます。前者が演繹法、普遍主義、個人主義を重視する一方で、後者は帰納法、歴史主義、社会主義を重視する傾向が見られるからです。

結論

ただし、両者を単純に二項対立的に捉えることは適切ではありません。歴史学派の中にも理論の重要性を認識する学者は存在し、ワルラスもまた現実の経済問題に関心を寄せていました。重要なのは、それぞれの学派がどのような問題意識を持ち、どのような方法で経済現象を理解しようとしていたのかを、彼らの著作を通して丁寧に読み解くことと言えるでしょう。

Amazonで詳細を見る

Leave a comment

0.0/5