ワトソンの二重らせんの対極
「客観的な科学」への挑戦:『ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光』
ジェームス・ワトソンの『二重らせん』は、DNA構造発見の舞台裏を赤裸々に描いたことでセンセーションを巻き起こしました。しかし、その一方的な視点、特にロザリンド・フランクリンに対する偏った描写は、多くの批判を浴びることになります。フランクリンはX線回折の専門家で、DNA構造解明に不可欠なX線写真を撮影した人物です。ワトソンは著書の中で、フランクリンを「気難しく、ヒステリックな女性」として描き、彼女の業績を軽視するような記述が目立ちました。
フランクリンの再評価とフェミニズムの隆盛
1975年に出版されたアン・セイヤーの著書『ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光』は、『二重らせん』で歪められたフランクリン像を正し、彼女の科学的貢献を正当に評価するものでした。セイヤーは、フランクリンが置かれていた不利な立場、すなわち、男性中心的な科学界における女性への偏見や差別を克明に描き出しました。
科学史における新たな視点
セイヤーの著作は、科学史におけるフェミニズムの視点の重要性を示すとともに、科学的発見における「英雄神話」に疑問を投げかけました。従来の科学史は、男性科学者の功績を中心に語られることが多く、女性やマイノリティの貢献は軽視されてきました。しかし、フランクリンの事例は、科学的発見が、多くの研究者の共同作業や競争、そして時には葛藤を通して生まれてくるものであることを改めて示しました。
「二重らせん」の対極としての意義
『ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光』は、単にフランクリンの伝記としてだけでなく、科学におけるジェンダー問題や、科学史の語り方そのものを問い直すきっかけを与えました。この著作は、『二重らせん』の対極に位置づけられることで、科学という営みの複雑さ、そして多様な視点の重要性を浮き彫りにしています。