## ワイルドの幸福な王子の美
ワイルドの「幸福な王子」における美は、表面的なものから内面的なものへの変容、犠牲と愛を通じた真の美の探求、そして芸術の持つ社会的な力を浮き彫りにする形で描かれています。
物語の冒頭では、幸福な王子は街の中心にそびえ立つ像として、金箔で覆われ、宝石で飾られた姿で登場します。彼はまさに街の人々が「美しい」と賞賛する存在です。しかし、この美しさはあくまでも表面的なものであり、王子の内面とは無関係です。生前は裕福で何不自由ない生活を送っていた王子は、民衆の苦しみを知る由もありませんでした。
ところが、高い台座の上から街を見下ろすうちに、王子は人々の貧困や苦しみを目の当たりにします。そして、自分の持ち物である宝石や金箔が、彼らを救うための力を持っていることに気づきます。ツバメの協力を得て、王子は自分の体の装飾を貧しい人々に分け与えていきます。
この過程で、王子の姿は変わり果てていきます。宝石を失った目は光を失い、金箔をはがされた体は見るも無残な姿になります。しかし、彼の心は、かつてないほど美しく輝いています。自己犠牲と愛によって、王子は真の美を体現する存在へと変貌を遂げるのです。
一方、ツバメもまた、王子との出会いを通して変化を遂げます。当初はエジプトへの渡りを優先していたツバメですが、王子の献身的な姿に心を打たれ、彼を助けることを決意します。そして、王子と共に街の貧しい人々を助け続ける中で、自己犠牲の尊さを学び、自身の内面に美しさを宿していきます。
「幸福な王子」は、真の美とは何かを問いかける物語です。それは、外見の美しさではなく、内面の美しさ、すなわち愛と慈悲の心を指し示しています。そして、芸術作品は、単に美しいだけでなく、社会的な問題を提起し、人々の心を動かす力を持つことができるというワイルドの信念を反映しています。