ワイルドの幸福な王子に影響を与えた本
### 社会主義のバイブル：トーマス・モア著「ユートピア」
トーマス・モアが1516年に著した「ユートピア」は、社会主義思想の礎となった作品であり、私有財産や貪欲の弊害を痛烈に批判する一方、平等と共同体の利益を重視した理想社会を描いています。この書は、当時の社会構造や価値観に疑問を投げかけ、より公正で慈悲深い世界を希求する人々に大きな影響を与えました。
ワイルドの「幸福な王子」もまた、貧富の格差や社会の不条理をテーマとし、物質的な豊かさよりも愛と自己犠牲の尊さを訴えかけています。幸福な王子の像は、生前は豪華な宮殿で何不自由ない暮らしを享受していましたが、死後、街を見下ろせる高い台座の上から人々の苦しみを目の当たりにすることで、真の幸福とは何かを悟っていきます。
モアの作品と同様に、「幸福な王子」もまた、物質主義や自己中心的な生き方を批判し、他者のために尽くすことの大切さを教えています。幸福な王子は、ツバメの助けを借りて、貧しい人々に自分の持ち物を分け与えることで、真の喜びと満足感を得ていきます。
「ユートピア」の影響は、「幸福な王子」の物語の根底に流れる社会正義や慈悲の精神、そして物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを重視する価値観に見ることができます。ワイルドは、モアの思想を踏まえながら、子供にも理解できる寓話という形で、普遍的な愛と自己犠牲の美しさを描き出していると言えるでしょう。