ワイルドのドリアン・グレイの肖像の評価
出版当時の評価
1890年の出版当時、『ドリアン・グレイの肖像』は批評家から賛否両論の評価を受けました。道徳的に退廃的であると非難する批評家もいれば、その文学的な技巧と美意識を賞賛する批評家もいました。
当時のイギリスでは、ヴィクトリア朝の厳しい道徳規範が支配的でした。そのため、耽美主義や快楽主義、同性愛といったテーマを扱った本書は、多くの読者に衝撃を与え、スキャンダラスなものと見なされました。新聞の中には、本書を「汚らわしい」「毒々しい」「不道徳の極み」と酷評するものもありました。
一方で、本書の文学的な価値を認める批評家もいました。彼らは、ワイルドの巧みな文章表現や登場人物の心理描写、そして美と堕落というテーマの深遠さを高く評価しました。例えば、文学雑誌「The Speaker」は、本書を「力強く、奇妙で、魅力的な作品」と評しています。
その後の評価
時代が進むにつれて、『ドリアン・グレイの肖像』に対する評価は変化していきました。20世紀に入ると、ヴィクトリア朝の道徳観念は衰退し、文学作品に対する表現の自由も広がっていきました。その結果、本書は当初のスキャンダラスなイメージを払拭し、文学史上の傑作として認められるようになりました。
現代では、『ドリアン・グレイの肖像』は、人間の心の闇や美と堕落、芸術と道徳といった普遍的なテーマを扱った作品として、高く評価されています。また、本書は映画や演劇など、様々な形で繰り返し翻案されており、その人気は衰えることを知りません。