ワイルドのドリアン・グレイの肖像の思想的背景
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美と道徳の分離
「ドリアン・グレイの肖像」は、ヴィクトリア朝後期のイギリスで流行した耽美主義の影響を強く受けています。耽美主義は、芸術は道徳的な目的から解放されるべきであり、美しさそのものが至高の価値を持つという思想でした。ワイルド自身もこの思想を強く支持しており、作品を通して、従来の道徳観にとらわれない美の追求を描写しました。
ドリアンは、自身の肖像画に自身の老いと罪を肩代わりさせることで、永遠の若さと美を手に入れます。しかし、これは同時に彼を道徳的な退廃へと導くことになります。この対比的な描写を通して、ワイルドは美と道徳の分離、そしてその危険性を浮き彫りにしています。
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享楽主義とデカダンス
作中には、快楽を追求する享楽主義的な登場人物が多く登場します。特に、ドリアンに悪影響を与えるヘンリー卿は、退廃的な快楽を肯定し、人生は美と快楽を追求するためにあると説きます。このような享楽主義的な思想は、当時の社会では退廃的とみなされながらも、一部の上流階級の間で流行していました。
ワイルドは、作中を通して享楽主義の光と影を描写することで、その魅力と危険性を同時に提示しています。ドリアンは享楽にのめり込む一方で、罪悪感に苛まれ、精神的に追い詰められていきます。
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表面と内面の対比
ドリアンと彼の肖像画は、外面の美と内面の醜対照的な存在として描かれます。ドリアンは、肖像画に自身の醜さを閉じ込めることで、永遠の若さと美を保ち続けます。しかし、彼の内面は、罪を重ねるごとに醜く腐敗していきます。
ワイルドは、この対比を通して、真の美は外面ではなく内面に宿るものであることを示唆しています。また、当時のヴィクトリア朝社会における、外面的な体面を重視する風潮に対する批判も込められていると考えられます。