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ワイルドのサロメに影響を与えた本

ワイルドのサロメに影響を与えた本

Joris-Karl Huysmans著『さかしま』

オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』は、聖書の物語に独自の解釈を加えたもので、退廃と官能、暴力の要素が色濃く打ち出されています。この戯曲に大きな影響を与えた作品の一つに、象徴主義の作家として知られるJoris-Karl Huysmansの小説『さかしま(原題:À rebours、英題:Against Nature)』が挙げられます。1884年に出版されたこの小説は、当時の社会の道徳観や伝統的な芸術観念に対する反逆と見なせるものでした。世紀末の倦怠感や退廃的な美意識を体現した作品として、ワイルド自身を含む当時の芸術家や作家に大きな影響を与えました。

『さかしま』は、主人公である貴族のジャン・デ・エスランテ伯爵が、退廃的な美の追求に耽溺していく様子を描いた作品です。彼は、自然や社会の慣習を嫌い、人工的な美の世界に閉じこもろうとします。彼の美的感覚は倒錯しており、腐敗の美しさや病的なものに魅力を感じます。

ワイルドの『サロメ』と『さかしま』の類似点は、まず両作品の主人公に見られます。サロメは、その美しさと残酷さを併せ持つ、退廃的な魅力を持つ存在として描かれています。彼女はヨカナーンの首を求めるという、常軌を逸した欲望に突き動かされます。一方、デ・エスランテ伯爵は、自身の退廃的な美的感覚を満たすために、あらゆる手段を尽くします。彼は、自然を模倣した人工物や、過去の芸術作品のコピーに囲まれた生活を送ります。

両作品の共通点は、伝統的な道徳観や美意識に対する反発という点にも見られます。サロメは、聖書に登場する人物でありながら、そのイメージは聖性とはかけ離れたものです。彼女は、自身の欲望に忠実で、その行動は当時の社会規範から逸脱しています。一方、デ・エスランテ伯爵は、当時のブルジョワ社会の価値観を否定し、彼自身の美的基準に基づいた生活を送ろうとします。

ワイルドは、『さかしま』のデ・エスランテ伯爵の耽美主義的な世界観と、社会の規範から逸脱した生き方に共鳴し、それが『サロメ』の創作にも影響を与えたと考えられます。サロメの退廃的な美しさや、ヨカナーンに対する異常なまでの執着は、『さかしま』の主人公の特徴と共通する部分が多く見られます。ワイルドは、『さかしま』から影響を受け、当時の社会ではタブーとされていた欲望や美意識を、『サロメ』という作品を通して表現したと言えるでしょう。

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