ローレンツの動物行動学の思索
動物行動学の確立
コンラート・ローレンツは、ニコ・ティンバーゲンやカール・フォン・フリッシュと共に、動物行動学という新しい学問分野を確立した中心人物として知られています。動物行動学は、動物の行動を生物学的に研究する学問であり、従来の行動主義心理学とは一線を画すものでした。行動主義心理学が、実験室という人工的な環境下での学習に焦点を当てていたのに対し、動物行動学は、動物の自然な生息環境における行動を重視しました。
本能の概念と生得的解発機構
ローレンツは、動物の行動の多くが、遺伝的にプログラムされた「本能」に基づいていると考えました。本能とは、特定の刺激に対して、決まったパターンで現れる行動のことです。彼は、この本能行動を引き起こすメカニズムとして、「生得的解発機構(IRM)」という概念を提唱しました。IRMは、特定の鍵刺激に反応して、特定の行動パターンを解発する神経機構です。
刷り込み
ローレンツは、ハイイロガンのヒナを使った実験で、「刷り込み」という現象を発見しました。刷り込みとは、生まれたばかりの動物が、最初に見た動くものを親と認識して、その後も追従するようになる現象です。刷り込みは、特定の臨界期にのみ起こる、学習とは異なる生得的なメカニズムです。
比較行動学
ローレンツは、様々な動物の行動を比較研究することによって、行動の進化を明らかにしようとしました。彼は、近縁な動物種間で行動を比較することで、共通祖先から受け継いだ行動パターンや、それぞれの環境に適応した行動の進化を解明できると考えました。
人間行動への示唆
ローレンツは、動物行動学の知見が、人間の行動を理解する上でも重要であると考えました。彼は、人間もまた動物の一種であり、本能や生得的な行動プログラムの影響を受けていると主張しました。しかし、人間は文化や学習の影響も強く受けるため、動物行動学の知見をそのまま人間に適用することには注意が必要です。