ローレンツの動物行動学に関連する歴史上の事件
ローレンツとナチス政権の関係性
コンラート・ローレンツは、動物行動学、特に動物の行動の遺伝的基盤と本能の研究の先駆者として知られています。彼の業績は、この分野に大きな影響を与え、1973年にはニコ・ティンバーゲン、カール・フォン・フリッシュと共にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。しかし、彼の業績は、ナチス政権との関わりという暗い影によって複雑なものとなっています。
ナチス政権下におけるローレンツの活動
ローレンツは1938年にナチス党に入党し、その後、党の関連組織にも所属していました。彼は、ナチス政権下で大学教授の職を得ており、その間に発表した論文には、ナチスのイデオロギーを反映した優生学的な見解が含まれていたと指摘されています。具体的には、彼は動物の行動研究から得られた知見を人間社会に適用し、人間の「退化」について論じました。彼は、文明化によって人間の自然な選択が阻害され、劣った遺伝子が蔓延していると主張し、ナチスの優生政策を支持するような発言も行っていたとされています。
戦後のローレンツ
第二次世界大戦後、ローレンツはナチスへの加担を悔い改めたとされています。彼は、自分の過去の行動について公に謝罪し、ナチスのイデオロギーを批判しました。しかし、彼の過去の行動は、彼の科学的業績を評価する上で、今もなお議論の的となっています。
動物行動学におけるローレンツの功績とナチスとの関連
ローレンツの動物行動学における功績は、彼が提唱した「刷り込み」の概念によって象徴されます。彼は、ハイイロガンのヒナが、孵化後最初に見た動く物体に対して愛着行動を示す現象を観察し、この現象を通して動物の行動発達における本能の重要性を明らかにしました。しかし、一部の研究者は、彼の刷り込みの研究が、ナチスのプロパガンダに利用された可能性を指摘しています。ナチスは、子供たちの教育に刷り込みの概念を応用し、幼い頃からナチスのイデオロギーを植え付けようとしました。
ローレンツの動物行動学への貢献は否定できませんが、彼のナチス政権との関わりは、科学と政治の関係、そして科学者が倫理的な責任をどのように果たすべきかという問題を提起する重要な事例です。彼の事例は、科学的業績が、それが生まれた時代背景や科学者個人の思想信条と切り離して論じられないことを示唆しています。