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ロールズの正義論を深く理解するための背景知識

ロールズの正義論を深く理解するための背景知識

社会契約論

ロールズの正義論は、社会契約論という政治哲学の伝統に位置づけられます。社会契約論とは、国家や社会の起源、正当性、個人の権利と義務などを、人々が契約を結ぶという仮想的な状況を設定することで説明しようとする理論です。有名な社会契約論者としては、トマス・ホッブズ、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソーなどが挙げられます。

ホッブズは、自然状態における人間の生活は「万人の万人に対する闘争」であり、恐怖と混乱に満ちていると主張しました。人々は、安全と秩序を確保するために、絶対的な権力を持つ主権者に自分の権利を譲渡するという契約を結ぶとされます。

一方、ロックは、自然状態においても、人々は自然法によって保障された権利(生命、自由、財産)を持っていると主張しました。人々は、これらの権利をより確実に保障するために、政府を設立するという契約を結ぶとされます。ロックの社会契約論は、近代立憲主義や民主主義の思想に大きな影響を与えました。

ルソーは、自然状態における人間は、自己愛と憐憫の情によって支配されており、自由で平等であったと主張しました。しかし、私有財産の発生により、社会は不平等と抑圧に満ちたものになってしまったとされます。ルソーは、人々が一般意志に基づいて社会を形成することで、真の自由と平等を実現できると考えました。

ロールズは、これらの社会契約論者とは異なり、正義の原理を導き出すために、「原初状態」という仮想的な状況を設定しました。原初状態において、人々は「無知のヴェール」によって、自分の社会的な立場や才能、価値観などに関する知識を遮断されています。このような状況下で、人々はどのような正義の原理を選択するのかを考察することで、公正で合理的な正義の原理を導き出せるとロールズは考えました。

直観主義

ロールズの正義論は、直観主義と呼ばれる倫理学の立場とも深く関わっています。直観主義とは、道徳的な真理は、理性的な直観によって把握できるとする考え方です。ロールズは、正義に関する人々の多様な直観を体系化し、より整合的で普遍的な正義の原理を構築しようとしました。

ロールズは、正義に関する直観として、以下の2つのものを特に重要視しました。

* 平等な自由の原理:すべての人は、他者の同様の自由と両立しうる限りにおいて、最大限の基本的自由を享受する権利を有する。
* 格差原理:社会的不平等は、以下の2つの条件を満たす場合にのみ正当化される。

* 機会の平等:社会における地位や職務は、すべての人に平等に開かれている。
* 最貧層の利益:社会的不平等は、社会の中で最も恵まれない人々の利益に資するものでなければならない。

ロールズは、これらの直観を原初状態における選択という思考実験によって正当化しようとしました。

功利主義

ロールズの正義論は、功利主義に対する批判としても理解することができます。功利主義とは、「最大多数の最大幸福」を道徳の基準とする考え方です。功利主義によれば、社会全体の幸福を最大化するような行為や制度が、道徳的に正しいとされます。

ロールズは、功利主義は個人の権利を十分に尊重していないと批判しました。功利主義によれば、少数者の権利を犠牲にしてでも、多数者の幸福を最大化することが正当化される可能性があります。ロールズは、このような功利主義的な考え方は、正義の原理として受け入れることはできないと考えました。

ロールズは、正義の原理は、個人の権利を保障するものでなければならないと主張しました。正義の原理は、社会全体の幸福を最大化するものではなく、すべての人にとって公正で合理的なものでなければならないとロールズは考えました。

福祉国家

ロールズの正義論は、福祉国家の思想とも深く関わっています。福祉国家とは、国家が積極的に社会福祉政策を実施することで、国民の生活水準の向上と社会的不平等の是正を目指す国家体制です。

ロールズは、正義の原理に基づけば、福祉国家は正当化されると考えました。ロールズの格差原理は、社会的不平等は、最貧層の利益に資する場合にのみ正当化されると述べています。これは、国家が社会福祉政策を実施することで、最貧層の生活水準を向上させることを正当化する根拠となります。

ロールズの正義論は、福祉国家の理論的な基礎を提供するものとして、大きな影響を与えました。彼の理論は、社会福祉政策の必要性や正当性を論じる際に、重要な参照点となっています。

これらの背景知識を理解することで、ロールズの正義論をより深く理解することができます。ロールズは、社会契約論、直観主義、功利主義、福祉国家といった多様な思想を参照しながら、独自の正義論を構築しました。彼の理論は、現代政治哲学において、最も重要な理論の一つとして、広く議論されています。

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