Skip to content Skip to footer

ロンブローゾの犯罪人論を深く理解するための背景知識

ロンブローゾの犯罪人論を深く理解するための背景知識

19世紀ヨーロッパの社会状況

19世紀のヨーロッパは、産業革命による急速な社会変動を経験していました。都市への人口集中、貧富の差の拡大、社会不安の増大といった問題が深刻化し、犯罪の増加も社会問題として認識されていました。こうした状況下で、犯罪の原因を科学的に究明しようとする動きが生まれ、犯罪学が成立する土壌が形成されました。当時のヨーロッパでは、実証主義や進化論といった思想が影響力を持ち、人間や社会現象を科学的に分析しようとする風潮が高まっていました。ロンブローゾの犯罪人論も、こうした時代背景の中で生まれたものであり、当時の科学思想の影響を強く受けています。

当時の精神医学・心理学

19世紀の精神医学は、精神疾患を脳の器質的異常と結びつける考え方が主流でした。また、心理学においては、人間の行動を生物学的要因から説明しようとする生物学的アプローチが台頭していました。ロンブローゾは、当時の精神医学や心理学の知見を犯罪研究に取り入れ、犯罪者の身体的特徴や精神的特性を分析することで、犯罪の原因を解明しようとしました。特に、精神疾患と犯罪の関連性に着目し、精神異常者が犯罪を起こしやすいと主張しました。また、進化論の影響を受け、犯罪者を人類の進化の過程で取り残された「原始人」のような存在とみなす「生来性犯罪人」という概念を提唱しました。

優生学

19世紀後半にフランシス・ゴルトンによって提唱された優生学は、遺伝的な素質を重視し、人類の改良を目指した思想です。優生学は、社会問題の解決策として、望ましい遺伝形質を持つ人々の増加と、望ましくない遺伝形質を持つ人々の減少を提唱しました。ロンブローゾの犯罪人論は、犯罪者の身体的特徴が遺伝的に決定されるとする点で、優生学と共通する部分があります。犯罪者を「劣等な人間」とみなし、犯罪の予防策として、犯罪者の隔離や断種といった優生学的政策を支持する論者もいました。ただし、ロンブローゾ自身は、優生学的な政策を積極的に主張したわけではありません。

人体測定学

人体測定学は、人間の身体の様々な部位を測定し、そのデータに基づいて人間の身体的特徴を分類・分析する学問です。19世紀には、人体測定学が人類学や医学などの分野で盛んに行われ、人間の身体的特徴と精神的特性、社会的地位などを関連付けようとする試みが行われました。ロンブローゾは、人体測定学の手法を用いて犯罪者の身体的特徴を詳細に測定し、犯罪者特有の身体的特徴があると主張しました。例えば、犯罪者は一般人に比べて、頭蓋骨が小さく、顎が大きく、耳が大きいといった特徴があると指摘しました。

統計学

19世紀には、社会現象を統計的に分析する手法が発展し、社会科学の分野で広く用いられるようになりました。ロンブローゾは、犯罪統計を用いて、犯罪者の年齢、性別、職業、出身地などの社会属性と犯罪との関連性を分析しました。また、犯罪者の身体的特徴に関する統計データを集め、犯罪者特有の身体的特徴を明らかにしようとしました。ロンブローゾは、統計学的手法を犯罪研究に導入した先駆者の一人とされています。

これらの背景知識を理解することで、ロンブローゾの犯罪人論が当時の社会状況、科学思想、学問的潮流と深く結びついていることを理解し、その内容をより深く考察することができます。

Amazonで犯罪人論 の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

Leave a comment

0.0/5