ロンブローゾの犯罪人の思想的背景
1. 19世紀後半の社会状況
ロンブローゾが生きた19世紀後半のヨーロッパは、フランス革命や産業革命の影響を受け、大きな社会変革期にありました。
急速な工業化と都市化は、貧困や犯罪の増加、社会不安といった問題を引き起こしました。
このような状況下で、人々は社会不安の原因と解決策を求めていました。
2. 実証主義の影響
19世紀後半には、観察と経験に基づいた実証主義が学問の世界で大きな影響力を持っていました。
ロンブローゾも実証主義の影響を受け、犯罪現象を科学的に解明しようと試みました。
彼は精神疾患の研究で用いられていた方法を参考に、犯罪者の身体的特徴や精神状態を詳細に観察し、統計的な分析を行いました。
3. 進化論の影響
ダーウィンの進化論は、19世紀後半の思想界に大きな衝撃を与えました。
ロンブローゾは進化論を人間社会にも適用し、「犯罪者は生物学的に原始的な段階に留まった存在である」という「生来性犯罪人説」を提唱しました。
彼は、犯罪者は進化の過程で退化した存在であり、身体的特徴や精神的な能力において、正常な人と区別できると考えました。
4. 優生学の影響
19世紀後半には、遺伝によって人類を改良しようとする優生学が台頭しました。
ロンブローゾの犯罪人論は、犯罪者の多くが遺伝的に劣っているとみなす優生思想と結びつき、後の時代には犯罪者の断種や隔離といった政策の根拠として利用されることもありました。
しかし、ロンブローゾ自身は、優生学的な政策を積極的に主張していたわけではありません。
これらの思想的背景を理解することは、ロンブローゾの犯罪人論が当時の人々にどのように受け入れられ、どのような影響を与えたのかを考察する上で重要です。