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ロンブローゾの犯罪人から学ぶ時代性

## ロンブローゾの犯罪人から学ぶ時代性

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19世紀後半のヨーロッパ社会における「退化」への恐怖

チェーザレ・ロンブローゾが「犯罪人論」を提唱した19世紀後半のヨーロッパは、フランス革命や産業革命を経て大きく変動した時代でした。資本主義経済の隆盛は貧富の格差を拡大させ、都市部への人口集中はスラム街の形成と犯罪の増加をもたらしました。こうした社会不安の中で、人々は社会秩序の崩壊や「退化」に対する恐怖を抱くようになりました。
ロンブローゾの理論は、犯罪者を「生まれながらの犯罪者」として位置づけ、その特徴として「原始人」を彷彿とさせる身体的特徴を挙げました。これは、進化論の影響を受けつつも、当時の社会不安や偏見を反映したものでした。「退化」という概念は、文明化から取り残された存在、社会進歩を阻害する存在に対する恐怖を象徴していたと言えるでしょう。

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植民地支配と優生学の台頭

当時のヨーロッパは、アジアやアフリカに対する植民地支配を拡大させていました。植民地支配の正当化のために、被支配者を「未開」で「劣った」人種として位置付ける考え方が広まりました。ロンブローゾの理論は、犯罪者を「未開人」と同一視することで、植民地支配を正当化する根拠としても利用されました。
また、「生まれながらの犯罪者」という概念は、優生学の発展にも影響を与えました。優生学は、遺伝的な「欠陥」を持つ人々の数を減らし、「優秀な」人種を増やすことを目的とする思想です。ロンブローゾの理論は、犯罪傾向が遺伝的に受け継がれるという考え方を広め、優生学的な政策を正当化する根拠として利用されました。

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科学の名の下に正当化された差別

ロンブローゾは、自らの理論を科学的に証明しようとしました。彼は、膨大な数の犯罪者の身体的特徴を測定し、統計的な分析を試みました。しかし、彼の研究方法は客観性に欠け、恣意的な解釈や偏見が含まれていました。

彼の理論は、科学の名の下に差別を正当化するものでした。「生まれつきの犯罪者」というレッテルは、社会的に弱い立場にある人々を排除し、差別を固定化する役割を果たしました。ロンブローゾの理論は、科学が常に中立的で客観的なものであるとは限らず、社会的な文脈や権力構造に影響される可能性を示す好例と言えるでしょう。

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