# ロビンソンの資本蓄積論を深く理解するための背景知識
古典派経済学の系譜と限界
ロビンソンの資本蓄積論は、古典派経済学、特にリカードやマルクスの理論を批判的に継承し、発展させたものです。古典派経済学は、労働価値説に基づき、資本蓄積と分配、経済成長のメカニズムを分析しました。リカードは、地代の法則や比較優位性の原理など、重要な経済法則を明らかにし、マルクスは、資本主義の矛盾と崩壊を予言する壮大な理論体系を構築しました。
しかし、古典派経済学は、資本財の価値決定や利潤率の決定など、いくつかの重要な問題において限界を抱えていました。例えば、労働価値説は、資本財の価値を労働量だけで説明するには不十分であり、利潤率の決定メカニズムも明確ではありませんでした。これらの問題点は、後に「ケンブリッジ資本論争」と呼ばれる論争の焦点となり、ロビンソンの資本蓄積論もこの論争に大きな影響を与えました。
ケインズ経済学の影響
ロビンソンの資本蓄積論は、ケインズ経済学の影響も強く受けています。ケインズは、有効需要の原理に基づき、資本主義経済における不完全雇用と景気循環の問題を分析しました。彼の理論は、当時の経済学に大きな衝撃を与え、マクロ経済学という新しい分野を生み出しました。
ロビンソンは、ケインズの有効需要の原理を長期的な経済成長の分析に導入し、資本蓄積と有効需要の関係を明らかにしました。彼女は、資本蓄積率が有効需要の水準に影響を与え、有効需要の水準が資本蓄積率に影響を与えるという相互作用を強調しました。この分析は、後の成長理論や景気循環理論に大きな影響を与えました。
不完全競争と技術進歩
ロビンソンは、古典派経済学が前提としていた完全競争ではなく、現実の経済に見られる不完全競争の重要性を認識していました。彼女は、企業が価格設定力を持つ不完全競争市場において、利潤率や賃金率がどのように決定されるかを分析しました。また、技術進歩が資本蓄積や経済成長に与える影響についても深く考察しました。
彼女は、技術進歩が資本集約度を高め、労働者の所得シェアを低下させる可能性を指摘しました。また、技術進歩が企業間の競争を激化させ、利潤率を低下させる可能性も指摘しました。これらの分析は、現代の経済学においても重要な課題となっています。
新古典派成長理論との対比
ロビンソンの資本蓄積論は、当時の主流派経済学であった新古典派成長理論に対する批判的な視点も提供しています。新古典派成長理論は、ソローモデルに代表されるように、完全競争と完全雇用を前提とし、資本蓄積と技術進歩が経済成長の源泉であると説明しました。
しかし、ロビンソンは、新古典派成長理論が現実の経済の複雑性を無視していると批判しました。彼女は、不完全競争や有効需要の不足、分配問題など、新古典派成長理論が無視している要素が経済成長に大きな影響を与えると主張しました。この批判は、後の内生的成長理論などの発展にもつながりました。
マルクス経済学との関連
ロビンソンの資本蓄積論は、マルクス経済学とも深い関連があります。彼女は、マルクスの資本論を深く研究し、その理論的枠組みを部分的に継承しました。特に、資本蓄積と階級闘争の関係、資本主義の矛盾と危機の可能性など、マルクス経済学の重要なテーマを扱っています。
しかし、ロビンソンは、マルクスの労働価値説や崩壊論には批判的でした。彼女は、労働価値説は資本財の価値を説明するには不十分であり、崩壊論は歴史的な必然性に基づいていないと主張しました。彼女は、マルクス経済学の限界を克服し、より現実的な資本主義分析を目指しました。
これらの背景知識を踏まえることで、ロビンソンの資本蓄積論の核心的な主張やその意義をより深く理解することができます。
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