# ロックの人間知性論を深く理解するための背景知識
ロックの生きた時代における知的背景
ジョン・ロック(1632-1704)は、イギリスの哲学者であり、政治思想家でもあります。彼の主著『人間知性論』(1689)は、近代哲学、特に認識論において重要な位置を占めています。ロックの思想を深く理解するためには、彼が生きていた17世紀イギリスの知的背景を理解することが不可欠です。
17世紀のヨーロッパは、中世スコラ哲学の権威が失墜し、新しい学問分野が勃興する時代でした。ルネサンス以降、古代ギリシャ・ローマの学問が復興し、人間中心主義的な考え方が広まりました。また、大航海時代を経て地理的な知識が拡大し、ヨーロッパ中心主義的な世界観が揺らぎ始めました。
科学 revolution もロックの思想に大きな影響を与えました。コペルニクス、ガリレオ、ニュートンといった科学者たちは、観察と実験に基づく近代科学の方法を確立し、それまでのアリストテレス的な自然観を覆しました。ロック自身も医学を学び、科学的な思考方法に親しんでいました。
スコラ哲学とデカルト哲学
ロックの『人間知性論』は、当時の支配的な思想であったスコラ哲学に対する批判から始まります。スコラ哲学は、アリストテレスの哲学とキリスト教神学を融合させた体系で、人間の理性は生得的な観念や原理を持っていると主張していました。
ロックは、生得的な観念の存在を否定し、人間の心は生まれたときは白紙(タブラ・ラサ)の状態であると主張しました。人間の知識はすべて、経験を通して得られる感覚的な情報から構築されると考えたのです。
ロックの思想に影響を与えたもう一つの重要な哲学は、ルネ・デカルトの合理主義です。デカルトは、人間の理性は真理を認識する能力を持っており、感覚的な情報に頼らずとも、理性だけで確実な知識を得ることができると主張しました。
ロックは、デカルトの合理主義的な側面を一部受け入れつつも、理性だけでは真の知識を得ることはできないと批判しました。彼は、人間の理性は経験によって得られた知識を整理し、体系化する役割を果たすと考えました。
イギリス経験論
ロックは、フランシス・ベーコンやトマス・ホッブズといった先駆的な思想家とともに、イギリス経験論の基礎を築きました。経験論とは、人間の知識はすべて経験に由来するという立場です。
ベーコンは、帰納法という科学的方法を提唱し、観察と実験を通して自然法則を発見することを重視しました。ホッブズは、人間の心は物質的な運動によって説明できるとする唯物論を展開し、社会契約説によって国家の起源を説明しました。
ロックは、ベーコンやホッブズの思想を受け継ぎつつ、人間の心をより詳細に分析し、経験を通して知識が形成される過程を明らかにしました。彼は、感覚的な経験から単純観念が形成され、それらが結合して複雑観念が形成されると説明しました。
政治思想との関連
ロックの認識論は、彼の政治思想とも深く関連しています。彼は、『統治二論』(1689)において、人間の自然権としての自由と平等を主張し、抵抗権や社会契約説といった近代民主主義の基礎となる概念を提示しました。
ロックは、人間は理性的な存在であり、自分の権利と利益を理解することができると考えました。また、政府は人民の同意に基づいて設立されるべきであり、人民の権利を侵害する政府に対しては抵抗する権利があると主張しました。
ロックの政治思想は、アメリカ独立宣言やフランス人権宣言など、近代の民主主義運動に大きな影響を与えました。彼の思想は、現代社会においても、自由と民主主義の重要性を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
このように、ロックの『人間知性論』を深く理解するためには、彼が生きていた時代の知的背景、スコラ哲学やデカルト哲学との関係、イギリス経験論における彼の位置づけ、そして彼の政治思想との関連性を理解することが重要です。これらの背景知識を踏まえることで、ロックの思想の奥深さと現代社会におけるその意義をより深く理解することができます。
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