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ロックの人間知性論の光と影

## ロックの人間知性論の光と影

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経験主義の確立

ロックは、人間は生まれたとき白紙(タブラ・ラサ)であり、経験を通してのみ知識を得ると主張しました。これは、それまでの理性主義的な考え方に大きな転換をもたらしました。理性主義では、生まれながらに理性の中にいくつかの重要な真理が備わっていると考えられていましたが、ロックはこれを否定し、すべての知識の源泉は経験であると主張したのです。

ロックは、経験を「感覚による経験」と「反省による経験」の二つに分けました。感覚による経験とは、五感を通して外界から得られる情報であり、反省による経験とは、自分の心の内面の働き、例えば、思考、疑い、信じるといった活動から得られる情報です。そして、これらの経験から得られた単純観念を素材として、比較、抽象化、結合といった心の働きによって複雑観念が形成されると説明しました。

この経験主義的な立場は、近代科学の発展に大きく貢献しました。ニュートン力学をはじめとする近代科学は、観察や実験といった経験的な方法によって発展したものであり、ロックの思想は、そう した科学的方法の妥当性を理論的に支えるものでもあったのです。

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政治思想への影響

ロックの思想は、政治思想の分野にも大きな影響を与えました。彼は、人間は生まれながらにして自由で平等な権利を持つと主張し、国家は個人の権利を守るために作られたとしました。これは、それまでの絶対王政を批判し、個人の自由と権利を重視する近代市民社会の形成を促すものでした。

ロックは、国家が個人の権利を侵害する場合には、人民は抵抗する権利を持つとも主張しました。この抵抗権の思想は、アメリカ独立革命やフランス革命など、近代の市民革命において重要な役割を果たしました。

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限界と批判

ロックの経験主義は、画期的な思想でしたが、その一方で限界や批判も指摘されています。例えば、心の働きである「反省」を経験の源泉とする点は、経験の概念を曖昧にしているという批判があります。また、単純観念から複雑観念が形成される過程については、具体的な説明が不足しており、観念の結合の根拠が不明瞭であるという指摘もあります。

さらに、ロックは、客観的な世界が実在し、我々はそれを感覚を通して知覚すると考えていましたが、感覚がどこまで客観的な世界を正確に反映しているのか、という問題については十分に議論していません。この点は、後にバークリやヒュームといった哲学者によって批判的に検討されることになります。

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