レーニンの唯物論と経験批判論に影響を与えた本
影響を与えた本： マッハ『力学の科学』
レーニンの『唯物論と経験批判論』は、20世紀初頭のロシアにおけるマルクス主義思想界で巻き起こった認識論争に、レーニンが自らの立場から反論を試みた書です。この書に大きな影響を与えた一冊として、オーストリアの物理学者・哲学者エルンスト・マッハの主著『力学の科学』が挙げられます。
マッハの思想： 感覚のみを基礎とする科学
マッハは、『力学の科学』において、ニュートン力学を批判的に検討し、独自の科学論を展開しました。彼は、形而上学的な概念を排し、人間の感覚経験だけを基礎として科学を構築することを主張しました。彼によれば、科学の目的は、複雑な感覚経験を、より単純な感覚要素に還元し、それらの間の関係を記述することです。
マッハは、ニュートン力学における「絶対空間」「絶対時間」「力」といった概念を、感覚的に経験できない形而上学的な概念として批判しました。彼は、これらの概念を排除し、物体の運動を、他の物体との相対的な位置の変化として捉え直すことを提案しました。
レーニンへの影響： マッハ主義への批判
レーニンは、『唯物論と経験批判論』において、マッハの思想を「経験批判論」と呼び、その認識論的な立場を批判しました。レーニンは、マッハの思想は、感覚経験のみを重視するあまり、物質の客観的な存在を否定する主観的観念論に陥っていると主張しました。
レーニンは、マッハの「感覚のみ」という立場は、物質と意識の関係を歪めると批判しました。彼は、人間の意識は、物質世界を反映したものであり、物質世界が存在しなければ、意識も存在しないと主張しました。
レーニンは、マッハの思想が、当時のロシア社会主義運動において影響力を持っていたことを警戒していました。彼は、マッハの思想が、物質の客観性を否定することで、革命運動の理論的な基盤を揺るがすと考えたのです。
レーニンは、『唯物論と経験批判論』において、マッハの思想を批判することで、唯物論的な認識論の立場を擁護し、マルクス主義の理論的な基礎を強化しようとしました。マッハの『力学の科学』は、レーニンの哲学思想の形成に大きな影響を与え、『唯物論と経験批判論』を執筆するきっかけとなった重要な一冊と言えるでしょう。