## ルソーの孤独な散歩者の夢想の対称性
###
作品構造における対称性
「孤独な散歩者の夢想」は、明確な章立てのない、一見すると断片的な回想録のように構成されています。しかし、詳細に見ると、いくつかの対称的な構造を見出すことができます。
まず、作品全体は「孤独」というテーマを軸に展開されており、冒頭と結末において特にこのテーマが強調されています。第一歩で「ついに私は自分自身を見出した」と宣言し、孤独な思索の旅が始まる一方、最終歩である第十歩では「もはや存在しない自分自身に別れを告げ」る言葉で締めくくられ、深い孤独と諦念が印象付けられます。このように、作品は孤独を始まりと終わりに置くことで、一種の循環構造を形成しています。
また、作品の中心部に位置する第五歩と第六歩は、それぞれ「植物採集」と「幸福な感覚」をテーマとしており、対照的な内容を示しています。第五歩では、植物採集に熱中していた過去の幸福な日々を回想しつつ、現実における孤独とのギャップに苦悩するルソーの姿が描かれます。一方、第六歩では、外界との関わりを断ち、自己の内面に深く沈潜することで得られる「幸福な感覚」について論じられます。このように、具体的な活動と抽象的な精神状態を対比的に配置することで、ルソーの内面における葛藤が浮き彫りになっています。
###
時間軸における対称性
時間軸においても、「孤独な散歩者の夢想」は過去と現在の対比構造を基盤としています。ルソーは、過去の幸福な記憶と現在の孤独な現実を対比させることで、自身の置かれた状況の悲哀をより一層際立たせています。
例えば、若かりし頃の植物採集の記憶は、現在の孤独な散策と対比され、失われた幸福の象徴として描かれています。また、「ジュネーヴ市民への手紙」で表明した自らの主張を振り返る場面では、過去の栄光と現在の不遇が対比され、ルソーの自己憐憫の情が強調されています。
さらに、作品全体を通して、過去への憧憬と現在への失望が繰り返し表現されています。過去の幸福な記憶は、現在の苦悩を和らげるものではなく、むしろその苦しみを 증대させる要因となっています。このように、過去と現在の対称的な配置は、ルソーの孤独と絶望をより鮮明に描き出す効果を生み出しています。
###
モチーフにおける対称性
作品中に繰り返し登場するモチーフにも、対称的な意味合いを持つものがいくつか見られます。
例えば、「植物」は、過去の幸福な記憶と自然への愛情を象徴する一方で、現在のルソーにとってはその採集はもはや叶わぬ夢となり、失われた楽園への郷愁を呼び起こすものとなっています。
また、「島」は、外界から隔絶された孤独な空間を象徴すると同時に、ルソーが理想とする自己完結的な世界を表現しています。しかし、現実のルソーは島に安住することはできず、社会との断絶に苦悩しています。
このように、一見すると肯定的な意味合いを持つモチーフも、ルソーの置かれた状況や心理状態によって、その解釈は変化します。このモチーフの持つ二重性が、作品の複雑さと深みを生み出していると言えるでしょう。