ルソーの人間不平等起源論を深く理解するための背景知識
1.ルソーの生きた時代:18世紀フランスの社会と思想
ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)は、18世紀フランス啓蒙主義の重要な思想家の一人です。彼の思想を理解するためには、当時のフランス社会とそこを席巻していた思想的潮流を把握することが不可欠です。18世紀フランスは、絶対王政のもと、貴族階級と聖職者階級が特権を持ち、第三身分と呼ばれる平民層が厳しい状況に置かれていました。啓蒙主義は、理性と経験に基づいて社会を変革しようとする思想運動で、モンテスキュー、ヴォルテール、ディドロなど多くの思想家を輩出しました。彼らは、封建的な社会制度や宗教的権威を批判し、自由、平等、人権などの価値を主張しました。ルソーも啓蒙主義の影響を受けつつも、独自の思想を展開しました。
2.自然状態:ルソーの着想の原点
ルソーは、「人間不平等起源論」の中で、人間の自然状態とはどのようなものだったのかを考察しています。自然状態とは、社会や文明が生まれる以前の人間の状態を指します。ルソーは、自然状態における人間は、理性や道徳心を持たず、自己保存の本能と憐憫の情に突き動かされて生きていたと考えています。彼は、この自然状態こそが人間にとって真に自由で平等な状態であったと主張しました。しかし、社会の成立とともに、私有財産や社会制度が生まれ、人間は不平等と隷属に陥っていったとルソーは分析します。この自然状態という概念は、ルソーの思想の根幹をなすものであり、「人間不平等起源論」を理解する上で重要な鍵となります。
3.ホッブズとの比較:自然状態と社会契約論
ルソーの自然状態論は、イギリスの思想家トマス・ホッブズ(1588-1679)の思想と比較することで、より深く理解することができます。ホッブズもまた、自然状態における人間は自己保存の本能に支配され、闘争状態にあると主張しました。しかし、ホッブズは、この闘争状態から抜け出すために、人間は社会契約によって国家に権力を譲渡する必要があるとしました。一方、ルソーは、ホッブズとは異なり、自然状態における人間は必ずしも闘争状態にあるわけではなく、社会契約によって国家が成立したことで、かえって人間は不平等と隷属に陥ったと批判しました。両者の自然状態論と社会契約論の違いを比較検討することで、ルソーの思想の独自性が浮き彫りになります。
4.ルソーの思想的影響:フランス革命へのインパクト
ルソーの思想は、18世紀後半のフランス社会に大きな影響を与え、フランス革命(1789年)の思想的基盤の一つとなりました。「人間不平等起源論」で展開された自由、平等、人民主権などの思想は、革命のスローガンとなり、革命家たちに大きな刺激を与えました。特に、ルソーの一般意志の概念は、国民全体の意思に基づく政治体制の正当性を主張するものであり、フランス革命における国民議会の成立や憲法制定に影響を与えたと考えられています。ルソーの思想が、フランス革命という歴史的出来事にどのように影響を与えたのかを考察することで、「人間不平等起源論」の持つ歴史的意義を理解することができます。
5.ルソー思想の現代的意義:現代社会における不平等問題
ルソーが「人間不平等起源論」で提起した問題は、現代社会においても重要な意味を持ち続けています。現代社会では、経済格差、貧困、差別など、様々な形の不平等が存在しています。ルソーの思想は、これらの不平等問題を考える上で重要な視点を提供してくれます。例えば、ルソーが批判した私有財産の弊害は、現代社会における資本主義経済の矛盾として現れているとも言えます。また、ルソーが重視した直接民主制の思想は、現代の政治制度における市民参加の重要性を考える上で示唆に富んでいます。ルソーの思想を現代社会の文脈の中で読み解くことで、彼の思想の普遍性と現代的意義を改めて認識することができます。
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