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ルソーの人間不平等起源論の思考の枠組み

## ルソーの人間不平等起源論の思考の枠組み

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自然状態

ルソーは、人間社会の不平等を理解するために、まず社会が存在しない「自然状態」を想定しました。これは歴史的に実在した状態ではなく、思考実験の産物です。自然状態における人間は、理性や道徳、言語を持たず、自己保存と憐れみの情のみによって突き動かされます。自己保存とは、自らの生存を維持しようとする欲求であり、憐れみの情とは、他者の苦痛に同情し、それを和らげようとする自然な感情です。

自然状態の人間は、他者との比較や優劣意識を持たず、孤独に、しかし比較的平和に暮らしていました。所有の概念も存在せず、必要なものを自然から得ることで生活していました。

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不平等の発生と発展

ルソーは、自然状態からの脱却、そして不平等の発生の原因を、私有財産の出現に求めました。「最初に土地を囲い込み、『これは私のものである』と言って、人々がそれを信じるほど単純であったとは、なんと罪深いことであろうか」という有名な一節は、このことを端的に表しています。

私有財産の出現は、労働、分業、そして所有の不均衡を生み出し、人間社会に競争と対立をもたらしました。人々は他者と比較し、優越性を誇示し始めます。この過程で、理性や言語、道徳などの能力が発展していく一方で、虚栄心、嫉妬、欺瞞といった悪徳も芽生えていきます。

ルソーは、不平等が歴史的に発展していく過程を、以下の4つの段階に分けました。

1. **自然状態からの脱却と家族の形成:** 自然状態からの最初の変化は、家族という小集団の形成でした。これは、人間が自然の脅威から身を守り、より安全な生活を求める中で自然に発生したと考えられます。
2. **最初の社会の形成と不平等の発生:** 家族が集まり、小さな社会が形成されるにつれて、労働の分業が始まり、生産性が向上しました。しかし、同時に、私有財産や富の不平等が生まれ始めました。
3. **政治社会の成立と不平等の固定化:** 富の不平等は、権力関係を生み出し、一部の人々が他者を支配するようになりました。こうして、政治社会が成立しますが、これは同時に、既存の不平等を法や制度によって固定化することになりました。
4. **絶対的な不平等:** 最終段階では、富と権力が少数の特権階級に集中し、大多数の人々は貧困と抑圧に苦しむことになります。

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文明批判

ルソーは、文明の発展が必ずしも人間を幸福に導いたとは考えていませんでした。むしろ、文明は人間を自然状態の自由で平等な状態から引き離し、不平等と不幸をもたらしたと批判しました。

ルソーは、自然状態における人間の「自然な自由」と、文明社会における「市民的自由」を区別しています。自然な自由は、本能的な欲求のままに行動する自由であり、市民的自由は、法によって制限された自由です。ルソーは、文明の発展によって人間は多くのものを手に入れた一方で、最も大切な自然な自由を失ってしまったと主張しました。

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