ルソーの人間不平等起源論の思想的背景
ルソーの生きた時代背景
ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)は、啓蒙主義の真っただ中に生きた思想家です。啓蒙主義とは、理性による人間の解放と社会の進歩を理想とした思想運動です。当時のヨーロッパ社会は、絶対王政や封建制度、教会の権威といった旧体制が支配的でした。啓蒙主義の思想家たちは、理性に基づいた自由と平等、人権の尊重といった新しい価値観を主張し、旧体制の改革を訴えました。
影響を与えた思想家
ホッブズ
トマス・ホッブズ(1588-1679)は、「万人の万人に対する闘争」状態である自然状態から、社会契約によって国家が形成されるとする社会契約論を唱えました。ルソーは、ホッブズの社会契約論を批判的に継承しています。ホッブズは、自然状態の人間は利己的で、絶えず争い合うと考えていました。一方でルソーは、自然状態の人間は、自己愛(amour de soi)のみを持ち、他者への攻撃性を持たないと考えました。
ロック
ジョン・ロック(1632-1704)もまた、社会契約論を主張した思想家です。ロックは、自然状態の人間は、生命、自由、財産といった自然権を有すると考えました。ルソーは、ロックの自然権思想の影響を受けながらも、私有財産の発生が不平等と不幸の根源であると批判しました。
モンテスキュー
シャルル・ド・モンテスキュー(1689-1755)は、著書『法の精神』の中で、権力分立論を展開しました。ルソーは、モンテスキューの権力分立論を高く評価し、人民主権と法の支配の重要性を強調しました。
啓蒙主義への批判
ルソーは、啓蒙主義の思想家でありながら、その限界も鋭く指摘しました。ルソーは、理性や科学技術の進歩が、必ずしも人間を幸福に導くとは限らないと考えました。ルソーは、文明社会の進歩が、かえって人間の堕落や不平等を招いたと批判しました。
自然状態の概念
ルソーは、「人間不平等起源論」において、自然状態における人間と文明社会における人間を対比させています。ルソーが考える自然状態とは、歴史的に実在した状態ではなく、人間の原初的な状態を想定したものです。ルソーは、自然状態における人間は、自己愛と憐憫の情によってのみ行動し、自由で平等な存在であったと考えました。
私有財産の発生
ルソーは、私有財産の発生を、不平等と不幸の根源であると批判しました。ルソーによれば、人間が土地を私有し始めたとき、社会における不平等が生まれました。私有財産は、富の集中、貧富の格差、社会の階層化をもたらし、人間を競争、支配、搾取といった関係に巻き込んでいくとルソーは考えました。