ルソーの人間不平等起源論に影響を与えた本
トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』
ジャン・ジャック・ルソーの画期的な著作『人間不平等起源論』は、西洋思想の歩みに大きな影響を与え、社会の不平等や人間の性質についての考察を刺激しました。ルソーの作品を形作った影響は数多くありますが、トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』は、ルソーの主張の核心にある概念的な枠組みを提供するという点で際立っています。1651年に出版された『リヴァイアサン』は、自然状態、社会契約、主権の性質に関するホッブズの考察を提示しており、ルソー自身の世界観と深く共鳴しました。
ホッブズとルソーの両方が人間の性質についての考察から出発していることは、両者の思想の関係を理解する上で不可欠です。しかし、彼らは異なる、そしてある意味では対照的な見解を持っていました。ホッブズは、人間は本質的に自己中心的であり、絶え間ない権力欲求に突き動かされると主張することで有名です。このような自然状態では、人生は「万人の万人に対する闘争」となり、誰もが常に暴力と死の脅威にさらされています。対照的に、ルソーは人間は本来は善であり、同情と自己保存という2つの主要な原則に導かれていると主張しました。ルソーの見解では、社会が人間の腐敗の根源であり、競争、所有、不平等という人工的な構造を通じて、人間を本来の善良な状態から堕落させます。
こうした違いにもかかわらず、ホッブズの『リヴァイアサン』は、ルソーの思想の展開に大きな影響を与えました。特に、社会契約の概念についてのホッブズの考察は、ルソーに深い影響を与えました。ホッブズは、社会秩序を維持し、自然状態の混乱から逃れるために、個人は自身の権利の一部を絶対的な主権者に放棄しなければならないと主張しました。この社会契約は、人々にセキュリティを提供する代わりに、個人の自由を制限しました。ルソーはホッブズの社会契約論を取り上げましたが、人間の自由と不平等がいかにこのプロセスによって生まれたかを批判的に検討するために、独自の解釈を加えました。
ルソーは『人間不平等起源論』の中で、ホッブズが描いた陰惨な自然状態は、人間の社会化の結果であり、自然状態そのものの正確な描写ではないと主張しました。ルソーは、初期の人間は、所有、比較、社会的階層の概念がない状態で、比較的平和で平等な生活を送っていたと信じていました。しかし、社会が発展し、私有財産が導入されるにつれて、人間は不平等、競争、抑圧に悩まされるようになりました。このプロセスは、ルソーが「すべての人を鎖でつなぐ」と表現した社会契約によって形式化され、一部の人を犠牲にして他の人の力を永続させる不公正な社会が作り出されました。
さらに、ホッブズの絶対的支配者に対する主張は、ルソーの政治哲学を形作ったもう一つの重要な点でした。ホッブズは、自然状態の混乱を防ぐために、主権者の権力は絶対的で分割できないものでなければならないと主張しました。一方、ルソーは絶対主義の概念を拒否し、それが個人の自由の抑制につながると主張しました。代わりに、ルソーは一般意志、つまり社会全体の共通の善に基づく統治形態を提案しました。ルソーにとって、合法的な政治的権力は、被治者の同意から生まれ、個人の権利と自由を保護することを目的としています。
要約すると、トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』は、ジャン・ジャック・ルソーの『人間不平等起源論』に大きな影響を与えました。自然状態、社会契約、主権の性質についてのホッブズの考察は、ルソーが独自の思想を発展させるための概念的な枠組みを提供しました。ルソーはホッブズの結論の多くに反対しましたが、『リヴァイアサン』で提起された問題は、社会の不平等、人間の性質、合法的な統治の性質についてのルソーの考察を形作る上で中心的な役割を果たしました。ホッブズとルソーの両方の永続的な影響は、これらの思想が今日の政治的、社会的議論を形作り続けていることから明らかです。