## ルカーチの歴史と階級意識の構成
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序論
本書の目的と方法論が提示されます。ルカーチは、マルクス主義の立場から、当時の社会や思想の危機を克服するために、プロレタリアートの意識と歴史のdialektische Bewegung(弁証法的運動)の関係を解明しようとします。
具体的には、以下の3点が強調されます。
1. **資本主義社会における思想の危機:** ルカーチは、第一次世界大戦後のヨーロッパにおける精神的な混乱と、それが生み出した様々な思想的潮流(ニーチェ、ショーペンハウアー、マックス・ヴェーバーなど)を批判的に分析します。
2. **マルクス主義の復権:** ルカーチは、このような危機を克服するためには、マルクスの思想、特に「資本論」に立ち返ることの重要性を主張します。
3. **プロレタリアートの役割:** ルカーチは、プロレタリアートこそが、資本主義社会の矛盾を克服し、新しい社会を建設する主体であると位置づけます。
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第一部:物象化とプロレタリアートの意識
この部分は、マルクスの「資本論」の分析に基づき、資本主義社会における「物象化(Verdinglichung)」という概念を詳しく解説します。ルカーチは、物象化を、人間が作り出した社会関係が、人間から独立した客観的な「もの」として現れ、人間を支配する現象と捉えます。
そして、この物象化が、プロレタリアートの意識にどのような影響を与えるのかを考察します。
第一部は、以下の三つの章で構成されています。
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第一章:物象化と資本主義社会の意識
資本主義社会における商品生産と交換の関係が、人間の労働を「抽象的な労働」へと転化させ、人間関係を「物と物との関係」へと変質させる過程を分析します。この章では、特に、貨幣の役割と、それが生み出す「貨幣的思考」の問題が詳しく論じられます。
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第二章:物象化とプロレタリアート
プロレタリアートが、資本主義社会において、どのように物象化の過程に巻き込まれ、その意識を規定されるのかを考察します。ルカーチは、プロレタリアートが、自身の労働力を「商品」として売らざるを得ない状況下において、自己疎外に陥りやすいことを指摘します。
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第三章:プロレタリアートの階級意識
しかし、ルカーチは、プロレタリアートが、自身の置かれた状況を「客観的に」認識することによって、物象化の克服へと向かう可能性を強調します。この章では、「階級意識」という概念が重要な役割を果たします。
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第二部:階級意識の諸問題
この部分では、第一部で提示された「階級意識」という概念を、より深く掘り下げ、その形成過程や問題点について考察します。ルカーチは、プロレタリアートが、自発的に階級意識を獲得することは難しく、その過程には様々な困難が伴うことを指摘します。
第二部は、以下の三つの章で構成されています。
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第一章:歴史における階級意識の問題
歴史的な事例を交えながら、階級意識の形成が、決して自動的なプロセスではなく、様々な社会的、政治的、文化的要因によって規定されることを論じます。この章では、特に、宗教やイデオロギーが、プロレタリアートの意識に与える影響が詳しく分析されます。
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第二章:ローザ・ルクセンブルクの理論における組織論
ローザ・ルクセンブルクの思想を分析し、プロレタリアートの階級意識の形成において、「組織」が果たす役割の重要性を強調します。ルカーチは、ルクセンブルクが、自発的な労働者運動と、それを指導する組織のdialektische Beziehung(弁証法的関係)を重視していたことを高く評価します。
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第三章:合法性と不法性
プロレタリアートの階級闘争における戦略と戦術の問題を考察します。ルカーチは、資本主義体制に対する「合法的な」闘争と「非合法的な」闘争のdialektische Einheit(弁証法的統一)の必要性を主張します。
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付録
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方法論的問題としての「批判的」と「社会学的」
この付録では、本書全体を通して重要な方法論的立場が示されます。ルカーチは、当時のドイツ社会学における「客観主義」的な方法を批判し、「主観」と「客観」のdialektische Aufhebung(弁証法的止揚)の必要性を主張します。
特に、マックス・ヴェーバーの「価値自由」の概念を批判し、社会科学は、常に特定の立場や価値観に基づいて行われるべきであると主張します。
## 注意点
「歴史と階級意識」は難解な哲学書として知られており、その解釈には様々な議論があります。上記の解説は、あくまで本書の構成を概観したものであり、詳細な内容や解釈については、本文を直接参照する必要があります。