## ルカーチの「歴史と階級意識」の思考の枠組み
###
マルクス主義の深化と唯物弁証法
ルカーチは、マルクスの思想を継承しつつ、ヘーゲル主義の弁証法を取り入れることで、独自の唯物弁証法を展開しました。「歴史と階級意識」では、この唯物弁証法を基軸に、資本主義社会の分析とプロレタリアートの役割について考察しています。ルカーチは、ヘーゲルの客観的観念論を批判的に継承し、マルクスの史的唯物論と融合させることで、社会と意識の相互作用を動的に捉えようとしました。
###
物象化と疎外
ルカーチは、資本主義社会における労働のあり方に注目し、「物象化」と「疎外」という概念を用いて分析しています。労働者は、自身の労働力を商品として資本家に売却することで、生産活動に参加します。この過程で、労働者は自らの労働の成果である「物」と対峙することになりますが、この「物」は、もはや労働者自身のものではなく、資本家の所有物となります。これが「物象化」です。
さらに、労働者は、自らの労働が生み出す「物」によって支配されるようになります。労働者は、長時間労働や低賃金など、自らの意思とは無関係に「物」の支配下に置かれます。これが「疎外」です。ルカーチは、この疎外を、労働者自身の意識や思考、そして社会関係にまで及ぶ広範なものとして捉えています。
###
階級意識とプロレタリアート
ルカーチは、プロレタリアートこそが、資本主義社会の矛盾を克服し、真の解放を実現する主体となりうると考えました。なぜなら、プロレタリアートは、資本主義社会における疎外の最も深刻な状況に置かれているため、その矛盾を最も鋭く認識できる存在だからです。
しかし、プロレタリアートは、常に自らの階級的立場を自覚し、革命的主体として行動できるわけではありません。資本主義社会は、支配階級であるブルジョワジーのイデオロギーによって覆われており、プロレタリアートもまた、このイデオロギーの影響を受けてしまうからです。
###
全体性と階級意識の自覚
ルカーチは、「全体性」の概念を用いて、プロレタリアートが真の階級意識に目覚めるための条件を考察しました。「全体性」とは、社会の全体構造を、歴史的な発展過程の中で捉える視点のことです。プロレタリアートは、自らの置かれた状況を、資本主義社会全体の構造と歴史の中に位置づけて理解することによって、はじめて真の階級意識を獲得することができます。
ルカーチは、この「全体性」を把握するためには、マルクス主義の理論が不可欠であると考えました。マルクス主義は、プロレタリアートにとって、単なる思想ではなく、世界を解釈し、変革するための「武器」となるからです。