リーのアラバマ物語の思想的背景
1. 南部ゴシックとリーの作品
「アラバマ物語」は、南部ゴシックと呼ばれる文学ジャンルに分類されます。南部ゴシック作品は、アメリカ南部を舞台に、その歴史、文化、社会問題などを、時にグロテスク、あるいは幻想的な要素を交えながら描きます。
リーの作品にも、南部ゴシックの特徴である、過去の亡霊、偏見と差別の根深さ、社会の歪みなどが描かれています。例えば、ブ―・ラドリーは、過去の出来事が原因で心に傷を負い、社会から孤立した人物として描かれており、過去の亡霊を象徴する存在として解釈できます。また、トム・ロビンソンの裁判は、人種差別という南部の負の歴史が現在に影を落とす様を描き出しています。
2. 公民権運動とリーの作品
「アラバマ物語」は、1960年に出版されましたが、これはアメリカにおける公民権運動の高まりと重なります。公民権運動は、アフリカ系アメリカ人に対する差別や偏見をなくし、平等な権利を獲得することを目指した運動です。
リーの作品は、公民権運動の文脈の中で読むことができ、人種差別や偏見に対する告発として解釈されてきました。トム・ロビンソンの裁判は、白人社会における黒人に対する偏見を浮き彫りにし、正義が貫かれない現実を描いています。また、アティカス・フィンチは、弁護士としてトム・ロビンソンを擁護し、倫理的な行動をとる人物として描かれ、公民としての勇気と責任を体現しています。