リストの政治経済学の国民的体系に影響を与えた本
**アダム・スミスの『国富論』**
フリードリヒ・リストの経済思想、特に彼の代表作『政治経済学の国民的体系』は、アダム・スミスの影響を大きく受けています。リストはスミスの著書『国富論』を批判的に分析し、そこから独自の理論を構築しました。
**スミス経済学の影響**
リストはスミスが提唱した自由貿易と分業の概念を部分的に受け入れていました。彼は、自由貿易が経済成長の原動力となり、国際的な分業が生産性を向上させることを認識していました。しかし、リストはスミスの理論がイギリスの特定の状況に最適化されており、すべての国に普遍的に適用できるわけではないと批判しました。
**リストの批判**
リストは、スミスの理論が「国際経済」ではなく「国民経済」の観点から書かれていると主張しました。彼は、スミスが国家間の経済発展段階の違いを無視しており、後発国が先進国と同じルールで競争することは不可能であると指摘しました。
リストは、スミスが提唱する自由貿易は、すでに工業化を達成したイギリスのような国にのみ有利であり、発展途上の国にとっては不利になると主張しました。彼は、発展途上の国は国内産業を保護し、育成するために保護貿易政策を採用する必要があると主張しました。
**『国民的体系』におけるスミス経済学の変容**
リストはスミスの自由貿易の概念を修正し、「保護貿易」の概念を提唱しました。彼は、発展途上の国が先進国に追いつくためには、自国の産業を保護し、育成する必要があると主張しました。リストは、保護貿易は一時的な措置であり、国内産業が国際競争力をつけたら自由貿易に移行すべきであると考えていました。
リストはまた、スミスの「労働価値説」を批判し、「生産力」の重要性を強調しました。彼は、国の富は単に労働力だけでなく、技術革新、教育、インフラストラクチャなど、生産性を向上させる要因によって決まると主張しました。
**結論**
リストはスミスの経済理論を批判的に分析し、そこから独自の「国民経済学」を構築しました。彼の理論は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ドイツや日本など、多くの後発国の経済発展に大きな影響を与えました。