## リストの政治経済学の国民的体系と人間
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リストの政治経済学における「国民」概念
フリードリヒ・リストは、その主著『政治経済学の国民的体系』において、従来の古典派経済学が唱える「自由貿易こそが普遍的に発展をもたらす」という考え方を批判し、「国民経済」という概念を提唱しました。リストは、国家の発展段階や置かれている状況によって最適な経済政策は異なると考え、特に後発国は自由貿易によって先進国の市場となるだけで、独自の産業を育成し、経済的自立を達成するためには保護主義が必要であると主張しました。
リストにとって「国民」とは、単なる地理的なまとまりではなく、言語、歴史、文化、伝統、そして経済生活を共有する共同体としての意味合いを持っていました。彼は、このような共通の基盤を持つ国民国家こそが、経済活動の主体となり、経済発展の原動力となると考えました。
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リストの経済思想における人間の位置づけ
リストの経済思想において、人間は単なる経済活動を行う「経済人」としてではなく、歴史や文化、道徳といった要素も併せ持つ複雑な存在として捉えられています。彼は、人間の経済活動は、物質的な利益の追求だけでなく、国民国家への帰属意識や貢献、将来世代への責任といった、非経済的な要因からも大きな影響を受けると考えました。
リストは、国家の役割を、国民の物質的な豊かさだけでなく、精神的な成熟、道徳的な向上、そして文化の発展を促進することにも求めました。彼は、真の経済発展とは、物質的な豊かさと精神的な豊かさが調和した状態であると考え、国家は教育や文化振興にも積極的に関与すべきであると主張しました。
リストの思想は、人間の経済活動を、単なる利潤追求のみに還元するのではなく、より広範な社会的、文化的、歴史的な文脈の中に位置づけることで、経済学に新たな視点を提供しました。