Skip to content Skip to footer

リカードの経済学および課税の原理を深く理解するための背景知識

## リカードの経済学および課税の原理を深く理解するための背景知識

18世紀後半から19世紀初頭のイギリスの社会経済状況

リカードが活躍した18世紀後半から19世紀初頭のイギリスは、産業革命の真っただ中にあり、社会経済は大きく変貌を遂げていました。まず、農業社会から工業社会への転換が急速に進み、都市部への人口集中、工場制機械工業の発展、新しい社会階層の出現といった現象が見られました。

産業革命に伴い、イギリスは世界的な経済大国としての地位を確立していきます。自由貿易を推進し、広大な植民地を有することで、世界市場において圧倒的な優位性を誇っていました。しかし、その一方で、国内では貧富の格差が拡大し、労働者階級の生活は厳しいものでした。

また、ナポレオン戦争の長期化は、イギリス経済に大きな影響を与えました。戦費調達のための増税や、大陸封鎖による貿易の停滞は、インフレーションや失業を引き起こしました。

このような社会経済状況の中で、リカードは経済学研究に取り組みました。彼の経済理論は、当時のイギリスが直面していた諸問題を解決するための処方箋として提示されたものであり、自由貿易の推進、地代論に基づく穀物法廃止論、金本位制への復帰など、具体的な政策提言を含んでいました。

古典派経済学の隆盛とアダム・スミス

リカードは、アダム・スミスを始祖とする古典派経済学の流れを汲む経済学者です。古典派経済学は、自由放任主義を基本的な考え方とし、市場メカニズムによる資源配分の効率性と経済成長の可能性を強調しました。

アダム・スミスは、主著『国富論』において、分業の重要性、自由競争の利点、見えざる手による市場の調整機能などを論じ、近代経済学の基礎を築きました。スミスは、国家による経済への介入を最小限に抑え、個人の経済活動を自由にすることで、社会全体の富が増大すると考えました。

リカードは、スミスの思想を継承しつつ、独自の経済理論を展開しました。特に、労働価値説に基づく価値論、地代論、国際貿易における比較優位説などは、リカードの大きな功績として高く評価されています。

マルサスの人口論

リカードと同時代に活躍した経済学者トマス・ロバート・マルサスは、『人口論』において、人口増加が食料供給を上回るペースで進むと、貧困や飢饉が発生するという「人口法則」を提唱しました。

マルサスは、人口増加を抑制するために、晩婚化や出産制限などの道徳的抑制を推奨しました。また、貧困層への救済は、かえって人口増加を招き、問題を悪化させると主張しました。

リカードは、マルサスの人口論を高く評価し、自らの経済理論に取り込みました。特に、地代論においては、人口増加による食料需要の増大が、地代の発生と上昇をもたらすと説明しました。

当時のイギリスにおける穀物法と自由貿易論争

ナポレオン戦争終結後、イギリスでは穀物価格が下落し、地主層は保護を求めて穀物法の制定を推進しました。穀物法は、外国産穀物に高い関税をかけることで、国内の穀物価格を維持することを目的としていました。

しかし、穀物法は、パンなどの食料価格を上昇させ、労働者階級の生活を圧迫しました。そのため、自由貿易を支持する経済学者や実業家たちは、穀物法の廃止を強く訴えました。

リカードは、自由貿易の熱心な支持者であり、穀物法は地主層の利益を守るための不当な政策であると批判しました。彼は、地代論を用いて、穀物法の廃止が食料価格の低下、労働者の生活水準向上、ひいては経済全体の活性化につながると主張しました。

セイの法則

フランスの経済学者ジャン=バティスト・セイは、「供給はそれ自体の需要を創造する」という「セイの法則」を提唱しました。これは、生産活動によって生み出された財やサービスは、必ずどこかで需要されるため、一般的に供給過剰は発生しないという考えです。

セイの法則は、古典派経済学の基本的な前提の一つとなり、リカードもこの法則を支持しました。しかし、1930年代の世界恐慌を契機に、ケインズ経済学が台頭すると、セイの法則は有効性を疑問視されるようになりました。

金本位制

金本位制とは、通貨の価値を一定量の金と結びつける制度です。19世紀のイギリスは、金本位制を採用しており、ポンド紙幣はいつでも金と交換することができました。

金本位制は、為替レートの安定やインフレの抑制に効果があるとされましたが、一方で、金融政策の柔軟性を欠くというデメリットもありました。

ナポレオン戦争中は、戦費調達のために紙幣が大量に発行された結果、インフレが発生し、金本位制は停止されていました。戦後、リカードは、金本位制への復帰を強く主張し、インフレ抑制と健全な財政運営の必要性を訴えました。

これらの背景知識を理解することで、リカードの経済学および課税の原理をより深く理解することができます。彼の理論は、当時の社会経済状況や他の経済学者の思想と密接に関連しており、それらを踏まえることで、リカードの主張の意義や限界をより正確に把握することが可能となります。

Amazonで経済学および課税の原理 の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

Leave a comment

0.0/5