## ラートブルフの法哲学の周辺
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時代背景
グスタフ・ラートブルフ(Gustav Radbruch, 1878-1949)は、ドイツの法哲学者・法社会学者であり、ワイマール共和国期において法務大臣を歴任した人物です。彼の思想は、二つの世界大戦に挟まれた激動の時代背景と切り離して考えることはできません。
第一次世界大戦後、ドイツではワイマール共和国が成立し、民主主義体制が導入されます。ラートブルフ自身もこの新体制に希望を抱き、積極的に政治にも参画しました。しかし、世界恐慌を契機にワイマール共和国は崩壊し、ナチスが台頭します。ナチス政権下における法の支配の崩壊やユダヤ人迫害を目の当たりにしたラートブルフは、自らの法哲学を根本的に見直すことになります。
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法実証主義への批判
ラートブルフは、初期においては「法実証主義」の立場をとっていました。法実証主義とは、法を「制定された法規範」と捉え、「法の内容」よりも「法の形式」を重視する考え方です。しかし、ナチス政権下では、形式的に合法的な手続きを踏まえて制定された法律が、ユダヤ人迫害などといった非人道的な行為を正当化するために利用されました。
この経験を通じて、ラートブルフは法実証主義の限界を痛感します。彼は、法の内容が正義や道徳からあまりにもかけ離れている場合には、もはや法としての妥当性を有しないと考えるに至り、後年には「法の三つの価値段階説」を唱えるようになりました。
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法の三つの価値段階説
ラートブルフは、法には「法的三つの価値」があるとしました。それは、「法の安定性」「目的への妥当性」「正義」です。ラートブルフは、この三つの価値には優劣関係があり、通常は「法の安定性」が最も重要視されるべきだとしました。
しかし、法の内容が「正義」からあまりにもかけ離れている場合には、「法の安定性」よりも「正義」が優先されるべきだとしました。これは、ナチスの経験に基づいた、ラートブルフの反省から生まれた考え方です。
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ラートブルフの思想の影響
ラートブルフの法哲学は、第二次世界大戦後のドイツにおける法整備や、ナチス時代の犯罪清算に大きな影響を与えました。また、彼の思想は、現代においてもなお、法と道徳の関係や、法の限界を考える上で重要な視点を提供しています。