## ラートブルフの法哲学に影響を与えた本:**自然法と国家法**
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著者
ハインリヒ・アウグスト・ロマン
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出版
1884年
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内容
19世紀後半、ドイツ法学界は歴史法学派の影響下にあり、法は国民の慣習や歴史的発展の中で自然発生的に成立するという立場を取っていました。これは、普遍的な道徳原理に基づく自然法の概念と対立するものでした。
ロマンは、この歴史法学派の立場を批判し、法の基礎となる普遍的な価値基準の必要性を説きました。彼は、法を「民族精神」の産物と見る歴史法学派の考え方を批判し、法の根底には、人間の理性によって認識可能な普遍的な道徳原理、すなわち「自然法」が存在すると主張しました。
ロマンは、自然法を「超歴史的・超国家的」なものと捉え、特定の時代や社会に限定されるものではないと考えました。そして、この自然法が、国家によって制定される「国家法」の妥当性の基準となるとしました。
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ラートブルフへの影響
ラートブルフは、ロマンの「自然法と国家法」から大きな影響を受けました。特に、法の根底に普遍的な価値基準が存在するという考え方は、ラートブルフの法哲学の核となる「法の理念」の概念に繋がっています。
ラートブルフは、ナチス政権下における法の腐敗を経験し、法の相対主義に陥ることの危険性を痛感しました。そして、ロマンの影響の下、法の基礎となるべき普遍的な価値基準を「法の理念」として提示したのです。
ラートブルフは、法の理念を「正義」「法的確信」「目的適合性」の三つから成るものとしました。これは、ロマンが提示した自然法の内容を具体化したものであり、法の妥当性を判断する基準として機能すると考えました。
このように、ロマンの「自然法と国家法」は、ラートブルフが法の理念を提唱する上で重要な役割を果たし、その後の法哲学に大きな影響を与えました。 ラートブルフは、ロマンの思想を継承しつつ、20世紀の全体主義の経験を踏まえ、法の理念の重要性をより強く主張したと言えるでしょう。