## ラ・ロシュフーコーの箴言録の思想的背景
### 17世紀フランスの社会的背景
ラ・ロシュフーコーが生きた17世紀フランスは、絶対王政が華開いた時代であると同時に、宗教戦争やフロンドの乱といった混乱期でもありました。貴族社会は宮廷を中心に展開され、そこでは権力闘争や策略が渦巻き、人々の行動はしばしば利己心や虚栄心によって支配されていました。ラ・ロシュフーコー自身も貴族であり、フロンドの乱では反乱軍側として参戦し、権謀術数が渦巻く宮廷生活を経験しました。
### モラリスト文学の伝統
ラ・ロシュフーコーの「箴言録」は、モンテーニュのエセーやパスカルの「パンセ」などに代表される、フランスのモラリスト文学の伝統に位置付けられます。モラリストたちは鋭い観察眼と批評精神によって、人間の行動や心理、社会の矛盾を描き出しました。彼らは人間の本質を冷静に観察し、その弱さや矛盾を容赦なく描き出すことで、道徳的な反省を促しました。
### エピクロス主義の影響
ラ・ロシュフーコーは、古代ギリシャの哲学者エピクロスの影響を受けているとされています。エピクロス主義は、快楽を人生の最終目的としながらも、真の快楽は心の平静(アタラクシア)にあるとしました。ラ・ロシュフーコーは、人間の行動の根底には自己愛があると見抜き、それが様々な形で現れることを箴言を通して示しました。
### ヤンセニズムの影響
ラ・ロシュフーコーは、当時のフランスで大きな影響力を持っていたヤンセニズムの影響も受けていたと考えられています。ヤンセニズムは、人間の原罪と神の恩寵を強調する厳格なカトリックの思想であり、人間の弱さや罪深さを強調しました。ラ・ロシュフーコーの箴言に見られる人間に対するシニカルな視点は、ヤンセニズムの影響を伺わせます。
### スティックス主義との比較
ラ・ロシュフーコーの思想は、ストア主義とも比較されることがあります。ストア主義は、理性に従って生きることを説き、感情や欲望に左右されないことを理想としました。ラ・ロシュフーコーもまた、人間の行動における理性よりも情念の力を重視していましたが、ストア主義のように理性による情念の抑制を説くのではなく、むしろ情念のメカニズムを冷静に分析しようとしました。