## ラ・メトリの人間機械論を読む前に
ラ・メトリの思想の背景
ジュリアン・オフレ・ド・ラ・メトリの『人間機械論』は、18世紀フランス Enlightenment thought) の産物であり、当時の哲学、科学、社会状況を理解することで、より深く理解することができます。
**1. デカルトの機械論:** デカルトは、動物を複雑な機械とみなし、人間の身体も同様に機械的な法則に従うと主張しました。ただし、人間には理性という非物質的な魂が存在すると考え、心身二元論を唱えました。ラ・メトリは、デカルトの機械論を人間全体に拡張し、魂の存在を否定しました。
**2. 医学と解剖学の進歩:** 18世紀には、医学と解剖学が大きく進歩し、人体の構造や機能が明らかになってきました。特に、血液循環の発見や神経系の研究は、生命現象を機械論的に説明しようとする試みを後押ししました。ラ・メトリ自身も軍医としての経験から、人体に対する深い知識を持っていました。
**3. 唯物論と無神論の台頭:** 当時のフランスでは、啓蒙思想の影響で、宗教的権威が揺らぎ、唯物論や無神論が広まりつつありました。ラ・メトリの『人間機械論』は、そうした思想の潮流の中で、大きな論争を巻き起こすことになります。
『人間機械論』の内容と影響
『人間機械論』は、人間の精神活動を含むすべての生命現象を、物質的な過程として説明しようとする、唯物論的な著作です。ラ・メトリは、感覚、思考、感情など、これまで魂の働きとされてきたものを、脳の機械的な活動に還元しようとしました。
**1. 人間と動物の連続性:** ラ・メトリは、人間と動物の間に根本的な違いはないと主張し、動物にも程度の差こそあれ、精神活動が存在すると考えました。そして、人間の精神も、複雑な機械である脳の働きに過ぎないと結論付けました。
**2. 道徳と社会への影響:** ラ・メトリは、人間の行動は、快楽と苦痛という機械的な原理によって決定されると考えました。そのため、従来の宗教や道徳に基づく社会秩序を否定し、人間の幸福を最大化するような社会の構築を訴えました。
批判的な視点を持つ
『人間機械論』は、当時の社会に大きな衝撃を与え、現在でも議論の的となっている作品です。ラ・メトリの主張は、現代の科学技術の進歩を予見するものでもありましたが、一方で、生命の神秘や人間の尊厳を軽視しているという批判もあります。
そのため、『人間機械論』を読む際には、当時の歴史的背景や思想的潮流を踏まえつつ、現代の視点からも批判的に考察することが重要です。ラ・メトリの主張を鵜呑みにするのではなく、それがどのような根拠に基づいているのか、どのような問題点があるのかを、自分自身で考えるように心がけましょう。