## ランケの世界史の光と影
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**客観的な歴史記述の追求**
レオポルト・フォン・ランケは、19世紀ドイツの歴史家であり、その著作「世界史」は歴史学において重要な位置を占めています。彼は史料批判に基づいた客観的な歴史記述を目指し、「ありのままに」歴史を描くことを主張しました。これは、それまでの歴史叙述が、著者の主観や政治的な意図に左右されることが多かった状況に対するアンチテーゼであり、歴史学の科学化に大きく貢献しました。
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**史料批判の重視**
ランケは、歴史研究において一次史料の重要性を強調し、史料批判の手法を体系化しました。彼は史料の真正性を検証し、その内容を批判的に分析することで、より正確な歴史的事実に迫ろうとしました。これは、伝承や伝説に頼っていた従来の歴史研究に、新たな方法論を導入した点で画期的でした。
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**国民国家史観の影響**
ランケの歴史観は、当時のドイツを取り巻く社会状況、特に国民国家の形成と深く関連しています。彼は、それぞれの国家や民族が固有の歴史と文化を持つという立場から歴史を捉え、プロイセンを頂点とするドイツ統一を肯定的に評価しました。これは、彼の歴史叙述に一定のバイアスをもたらした側面も否めません。
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**西洋中心主義**
ランケは、西洋文明を世界史の中心と捉え、他の文明を相対的に低い段階にあると見なしていました。これは、当時のヨーロッパ中心主義的な世界観を反映したものであり、今日の多文化主義的な視点からは批判の対象となっています。彼の歴史叙述には、西洋文明を優位に立たせるような記述が見られることも事実です。
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**政治史への偏重**
ランケは、「世界史」において政治史を中心に据え、外交史や戦争史を重視しました。これは、国家間の権力闘争を歴史の主要な動力と捉える彼の歴史観に基づくものでした。その一方で、社会構造や経済活動、文化や思想といった側面は軽視され、歴史を多角的に捉える視点を欠いていたという指摘もあります。
これらの光と影を踏まえつつ、ランケの「世界史」は、史料批判の重要性を確立し、客観的な歴史記述を追求したという点で、歴史学の発展に大きく貢献しました。しかし、同時に彼の歴史観は、当時の社会状況や思想の影響を受け、今日の視点から見ると問題点も指摘されています。