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ラッセルの数理哲学序説を深く理解するための背景知識

## ラッセルの数理哲学序説を深く理解するための背景知識

### 哲学史におけるラッセルの位置付け

ラッセルは、20世紀を代表するイギリスの哲学者であり、論理学者、数学者、社会批評家としても活躍しました。彼の哲学は、分析哲学と呼ばれる潮流に属し、言語分析を通じて哲学的問題を解決しようとする立場をとります。ラッセルの哲学は、特に初期においては、フレーゲ、ムーア、ホワイトヘッドといった同時代の哲学者や数学者からの影響を強く受けています。

### 数理哲学の勃興と背景

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、数学の基礎に関する研究が大きく進展しました。カントールによる集合論の創始、デデキントやワイエルシュトラスによる実数の厳密な定義などは、その代表的な成果です。しかし、これらの成果は同時に、数学の基礎に潜むパラドックスや矛盾を明らかにすることにもなりました。例えば、ラッセル自身によって発見された「ラッセルのパラドックス」は、集合論に深刻な問題を投げかけるものでした。こうした状況の中で、数学の基礎を確固たるものにするために、論理学を用いて数学を再構築しようとする動きが生まれました。これが数理哲学、あるいは論理主義と呼ばれる潮流です。

### 論理主義とは何か

論理主義とは、簡単に言えば、数学は論理学に還元できるという主張です。つまり、数学のすべての概念は論理学の概念によって定義でき、数学のすべての定理は論理学の公理から証明できるとする立場です。この立場を最も明確に主張したのが、フレーゲとラッセルでした。フレーゲは、概念記法と呼ばれる独自の論理体系を用いて、算術を論理学から導出しようとしました。しかし、彼の体系はラッセルのパラドックスによって矛盾を含むことが明らかになりました。ラッセルは、ホワイトヘッドと共同で『プリンキピア・マテマティカ』を執筆し、タイプ理論と呼ばれる新しい論理体系を用いて、フレーゲの試みを修正し、数学の論理主義的基礎付けを目指しました。

### 集合論とラッセルのパラドックス

カントールによって創始された集合論は、現代数学の基礎となる重要な理論です。集合とは、ものの集まりのことであり、例えば「自然数の集合」「偶数の集合」といったものが考えられます。しかし、集合論は、その誕生当初から、いくつかのパラドックスを抱えていました。その中でも最も有名なのが、ラッセルによって発見された「ラッセルのパラドックス」です。このパラドックスは、次のようなものです。

「自分自身を要素として含まない集合全体の集合」を考えます。この集合をRと呼ぶことにします。すると、Rは自分自身を要素として含むでしょうか、それとも含まないでしょうか。

もしRが自分自身を要素として含むとすると、Rの定義「自分自身を要素として含まない集合全体の集合」に矛盾します。逆に、もしRが自分自身を要素として含まないとすると、Rは「自分自身を要素として含まない集合」なので、Rの定義からRは自分自身を要素として含まなければなりません。

このように、Rが自分自身を要素として含むとしても含まないとしても矛盾が生じてしまうことを、ラッセルのパラドックスと言います。

### タイプ理論の概要

ラッセルは、ラッセルのパラドックスのような矛盾を解消するために、タイプ理論と呼ばれる論理体系を考案しました。タイプ理論の基本的なアイデアは、集合や関数を階層的に分類し、異なるタイプの対象を混ぜて扱うことを禁止することです。例えば、個体(例えば、ソクラテス)は0階の対象、個体の集合は1階の対象、個体の集合の集合は2階の対象、といったように分類されます。そして、「集合は自分自身を要素として含むことはできない」というルールを設けることで、ラッセルのパラドックスのような矛盾を回避することができます。

### 記述理論と不完全記号

ラッセルは、自然言語における指示表現の分析において、記述理論と呼ばれる独自の理論を展開しました。「ソクラテスは哲学者である」のような文において、「ソクラテス」のような固有名詞は、直接的に対象を指示するのに対し、「哲学者」のような記述語句は、ある条件を満たす対象を指示すると考えられます。ラッセルは、記述語句を含む文を論理的に分析するために、記述語句を文の主語の位置から排除する手法を提案しました。また、ラッセルは、「現在のフランス国王」のような記述語句が、実際には指示対象を持たない場合があることを指摘し、このような記述語句を「不完全記号」と呼びました。

### 論理的原子論の概要

ラッセルは、世界は論理的に独立な原子的事実から構成されているという「論理的原子論」と呼ばれる形形而上学的な立場を主張しました。原子的事実とは、それ以上分析できない究極的な事実であり、例えば「これは赤い」のような単純な文によって表現されると考えられます。ラッセルは、論理学を用いて、複雑な事実を原子的事実に分解し、世界の構造を明らかにしようと考えました。

これらの背景知識を踏まえることで、「数理哲学序説」で展開されるラッセルの議論をより深く理解することができます。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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