## ラッセルの数理哲学序説の周辺
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執筆の背景と目的
「数理哲学序説」は、バートランド・ラッセルが第一次世界大戦中に投獄されている間に執筆されました。この時期、ラッセルは反戦活動のために大学での職を失い、執筆活動に専念していました。
ラッセルは、当時の数学の基礎に疑問を抱いていました。特に、ゲオルグ・カントールの集合論に見られるパラドックスは、数学の論理的な厳密さに疑問を投げかけていました。
そこでラッセルは、「数理哲学序説」において、数学を論理学に還元することで、こうした問題を解決しようと試みました。彼は、数学の概念はすべて論理学の用語で定義できると主張し、そのために独自の論理体系を構築しました。
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内容と構成
「数理哲学序説」は、全3部19章から構成されています。
* **第1部:数と論理学**
この部分では、ラッセルは自然数を論理学の用語で定義することを試みています。彼は、ジュゼッペ・ペアノの公理を参考に、自然数の概念を集合論を用いて定義しています。
* **第2部:記述の理論**
この部分では、ラッセルは Gottlob Frege の影響を受けながら、文の意味と指示に関する独自の理論を展開しています。彼は、文の意味を文が表す事実と定義し、指示を文が言及する対象と定義しています。
* **第3部:クラスと関係の理論**
この部分では、ラッセルは集合論のパラドックスを回避するために、型理論と呼ばれる独自の理論を展開しています。型理論は、集合を異なる階層に分類することで、集合論のパラドックスの原因となる自己言及的な集合の構成を禁止するものです。
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影響
「数理哲学序説」は、20世紀の分析哲学、特に論理実証主義に大きな影響を与えました。ラッセルの論理主義は、ウィトゲンシュタインの初期の思想にも影響を与え、「論理哲学論考」の成立にも間接的に貢献しています。
一方で、「数理哲学序説」で展開された論理主義は、クルト・ゲーデルの不完全性定理によって限界が示されることになります。不完全性定理は、いかなる矛盾のない数学的体系においても、その体系内で証明も反証もできない命題が存在することを示しており、数学を論理学に還元するというラッセルの試みにとどめを刺すものでした。
しかし、不完全性定理によってラッセルの論理主義が完全に否定されたわけではありません。ラッセルの思想は、数学の基礎に関する議論に大きな影響を与え続け、現代の数学の哲学においても重要な位置を占めています。