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ラッセルの数理哲学序説から学ぶ時代性

## ラッセルの数理哲学序説から学ぶ時代性

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1. 第一次世界大戦後の思想的混乱と論理実証主義の台頭

ラッセルの『数理哲学序説』が出版された1919年は、第一次世界大戦が終結した翌年にあたります。この大戦は、それまでのヨーロッパ中心主義的世界観や進歩史観を根底から覆すほどの衝撃を世界に与えました。大戦の惨禍を目の当たりにした人々は、従来の価値観や思想体系に疑問を抱き、新しい時代精神を求めて模索し始めます。

こうした時代背景の中で、ラッセルが提唱した論理実証主義は、大きな影響力を持つことになります。論理実証主義は、形而上学や倫理学といった伝統的な哲学分野を「意味のない命題」として排斥し、論理学と数学、そして経験科学のみを「真に意味のある知識」と見なす立場です。

ラッセル自身、大戦に反対する立場から活動しており、その経験が彼の思想に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。彼は、大戦を引き起こした一因として、非合理的なナショナリズムや排他的なイデオロギーを挙げ、こうした問題を克服するためには、論理的な思考と科学的な方法に基づいた新しい哲学が必要であると考えたのでしょう。

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2. 数学の基礎付けの危機と論理主義

ラッセルの『数理哲学序説』が執筆された時代は、数学の世界においても大きな転換期にありました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、数学の基礎をなす集合論において、さまざまな矛盾(パラドックス)が発見されたのです。

この「数学の基礎付けの危機」は、数学という学問そのものの根基を揺るがす大問題であり、多くの数学者を巻き込む論争が巻き起こりました。ラッセル自身も、この問題に取り組んだ一人であり、その成果の一つが『数理哲学序説』に結実しています。

ラッセルは、ホワイトヘッドと共に、数学の基礎を論理学によって再構築しようとする「論理主義」を提唱しました。彼らは、数学的概念はすべて論理学の概念に還元できるという立場から、膨大な量の論理記号を用いて数学の定理を証明しようと試みました。

『数理哲学序説』は、こうしたラッセルの論理主義に基づいた数学哲学の入門書としての役割を担っていました。彼は、この本の中で、数学の基礎に関する当時の問題や論争について解説し、自らの論理主義の立場からの解答を示そうと試みています。

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3. 言語への関心の高まりと分析哲学の誕生

20世紀初頭は、言語学や記号論といった分野が大きく発展した時代でもありました。ソシュールの記号論やウィトゲンシュタインの初期の思想など、言語の構造や意味に関する新しい理論が次々と登場し、哲学の世界にも大きな影響を与えました。

ラッセルもまた、言語の問題に関心を抱いていた哲学者の一人でした。彼は、哲学における多くの問題は、実は言語の曖昧性や誤用から生じていると考え、言語を分析することによって、そうした問題を解決できると考えました。

『数理哲学序説』においても、ラッセルは、数学や論理学の言語分析を通して、伝統的な哲学の問題を解明しようと試みています。例えば、彼は、集合論のパラドックスは、日常言語における主語と述語の区別を明確にしないまま、数学的概念を定義しようとしたために生じたと考えています。

ラッセルのこうした言語分析の手法は、後に「分析哲学」と呼ばれる新しい哲学の潮流を生み出す原動力の一つとなりました。分析哲学は、20世紀後半以降、英米圏を中心に大きな影響力を持つようになり、現代哲学において最も重要な潮流の一つとなっています。

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