ラシーヌのブリタニスの原点
登場人物のモデル
* **ネロン:** スエトニウス、タキトゥスなどの歴史家の記述に基づいています。ラシーヌは、暴君として描かれることが多いネロンの、まだ比較的穏便であった治世初期（皇帝就任から5年後）を描いています。
* **ブリタニクス:** ネロンの異母兄弟。歴史書におけるブリタニクスは、受動的で政治に関心の薄い人物として描かれることが多いですが、ラシーヌは彼に、ネロンに対抗しうる英雄的な資質を与えています。
* **ジュニー:** ブリタニクスとネロンの共通の恋人。史実では、ネロンの最初の妻であるオクタヴィアと同一人物とされていますが、ラシーヌは彼女を、ブリタニクスの婚約者でありながら、ネロンに恋心を抱くという、より複雑な人物として描いています。
* **アグリピーヌ:** ネロンの母。権力欲が強く、息子のネロンを皇帝にするために暗躍したとされています。ラシーヌは、彼女の母性愛と権力欲との葛藤を描いています。
* **ナルシス:** ネロンの側近。歴史書では、ネロンに悪影響を与えた佞臣として描かれることが多いですが、ラシーヌは、彼をネロンの心の奥底にある闇の象徴として描いています。
史実との違い
* **ブリタニクスの死:** 史実では、ブリタニクスはネロンによって毒殺されたとされていますが、劇中では、ネロンが毒殺を指示するものの、実行される前に幕が閉じられます。
* **ジュニーとブリタニクスの関係:** 史実では、ジュニー（オクタヴィア）とブリタニクスは結婚していません。ラシーヌは、劇的な効果を高めるために、二人の間に婚約関係を設定しています。
* **アグリピーヌの役割:** 史実では、アグリピーヌはネロンの治世初期に暗殺されたとされていますが、劇中では、ネロンの悪行を阻止しようと奮闘しています。
題材
* **権力と欲望:** ネロンの権力への野心と、それが引き起こす悲劇を描いています。
* **愛と義務の葛藤:** ジュニーが、愛と義務の間で苦悩する姿を通して、人間の心の複雑さを描いています。
* **母と子の関係:** アグリピーヌとネロンの複雑な関係を通して、母性愛と権力欲の対立を描いています。
影響
* **古典主義:** 三一致の法則（時間の単一性、場所の単一性、 Handlung の単一性）を厳守し、高尚な文語を用いるなど、古典主義演劇の規範に則っています。
* **心理劇:** 登場人物たちの内面の葛藤を深く掘り下げた心理劇の先駆けとして評価されています。
ラシーヌは、これらの要素を巧みに組み合わせることで、権力、愛、義務、母性といった普遍的なテーマを描き出した傑作を生み出しました。