ラシーヌのブリタニクスを面白く読む方法
1. 歴史的背景と登場人物の関係性を理解する
ブリタニクスは、ローマ皇帝ネロの治世初期を舞台とした悲劇です。ネロ、ブリタニクス、オクトーヴィア、ジュニエ、ナルシスといった登場人物は、実際に歴史上に存在した人物たちをモデルにしています。作品をより深く理解するためには、当時のローマ帝国の歴史や、登場人物たちの関係性について事前に調べておくことが重要です。
例えば、ネロは暴君として知られていますが、ブリタニクスはそのネロと異父兄弟の関係にあり、本来であれば帝位継承権を持つ立場でした。作品は、ネロが権力を掌握していく過程で、ブリタニクスやその婚約者であるジュニエとの間にどのような愛憎劇が繰り広げられるのかを描いています。登場人物たちの複雑な関係性を理解することで、彼らの行動や感情の機微がより鮮明に浮かび上がり、作品への没入感が高まります。
2. 古典主義演劇の様式美を味わう
ラシーヌは、17世紀フランス古典主義を代表する劇作家の一人です。彼の作品は、三単一則(時、場所、 Handlungseinheit )を厳格に守り、登場人物の身分や立場に応じた格調高い言葉遣いが特徴です。ブリタニクスもまた、古典主義演劇の様式美を色濃く反映した作品です。
登場人物たちの台詞は、現代の私たちにはやや難解に感じられるかもしれません。しかし、言葉の一つ一つを丁寧に追っていくことで、登場人物たちの高貴な精神性や、抑圧された感情の揺れ動きを感じ取ることができます。また、舞台装置や衣装の華やかさ、登場人物たちの身振り手振りなど、視覚的な要素にも注目することで、古典主義演劇ならではの美意識を体感することができます。
3. 愛と権力を巡る人間の業を見つめる
ブリタニクスは、単なる歴史劇ではありません。愛と権力を巡る人間の業を描いた普遍的なテーマを含んでいます。ネロは、権力への野望のために愛する女性を犠牲にし、ブリタニクスは、愛と正義のために命を落とします。登場人物たちは、それぞれの立場や欲望に翻弄され、悲劇的な運命へと突き進んでいきます。
作品を読み進める中で、彼らの行動や選択に共感したり、反発したりするかもしれません。それは、私たち自身の内面にも、愛と権力に対する欲望や葛藤が存在するからです。ブリタニクスを通して、人間の心の奥底に潜む光と影を見つめ、人生について深く考えるきっかけを得ることができるでしょう。
4. 他の作品との比較を通して理解を深める
ブリタニクスは、それ自体としても完成度の高い作品ですが、他の作品と比較することで、ラシーヌの作風やテーマをより深く理解することができます。例えば、同じラシーヌの作品である「アンドロマック」や「フェードル」を読むことで、彼の描く愛の悲劇のバリエーションや、女性像の変化などを比較検討することができます。
また、ブリタニクスと同じくローマ帝国を舞台としたシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」や、権力闘争を描いた作品と比較することで、それぞれの作品の共通点や差異が見えてきます。他の作品との関連性を意識しながら読むことで、ブリタニクスに対する理解がより一層深まります。