## ラシーヌのフェードルの表象
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愛と欲望の表象
ラシーヌの『フェードル』において、愛と欲望は単なる感情ではなく、抗うことのできない破壊的な力として描かれています。特に、フェードルが継子であるヒッポリュトスに抱く禁断の愛は、彼女自身を苦しめ、周囲の人間を巻き込みながら悲劇へと突き動かしていく原動力となります。
フェードルの愛は、理性では制御できない、激情と狂気に近い形で表現されます。彼女は自らの想いを恥じ、隠そうとしますが、その愛は抑圧されるほどに激しさを増し、ついには告白という形で爆発します。この愛の表明は、古代ギリシャの悲劇にふさわしい、運命的な破滅への序章として機能しています。
一方、ヒッポリュトスはアリシーへの純粋な愛を抱いています。しかし、皮肉にも、彼のこの誠実な愛情が、フェードルの嫉妬と憎悪を煽り、悲劇を加速させる一因となってしまいます。
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運命と宿命の表象
『フェードル』は、古代ギリシャ悲劇の伝統を受け継ぎ、運命と宿命のテーマを色濃く反映しています。フェードルは、自らの出自であるクレタ島の王家に課せられた呪い、そして女神アフロディーテの怒りによって、逃れられない悲劇へと導かれていきます。
彼女は自らの意志に反してヒッポリュトスへの愛に苦しみ、その想いを抑えきれない自身の弱さを呪います。登場人物たちの努力や抵抗も空しく、運命の歯車は容赦なく廻り続け、破滅へと向かっていく様子は、古代ギリシャ悲劇特有の悲壮感を漂わせています。
また、劇中に登場する神々は、単なる超越的な存在ではなく、人間の運命を操る残酷な存在として描かれます。彼らの意志は絶対であり、登場人物たちは翻弄され、抗う術を持ちません。