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ラシーヌのフェードルの技法

## ラシーヌのフェードルの技法

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古典主義の三原則

ラシーヌはフランス古典主義の劇作家として、その作品の多くで、アリストテレスの詩学に基づいた三原則(三一致)を厳格に守っています。「フェードル」も例外ではなく、以下の三原則が徹底されています。

* **時間の単一性:** 劇中の時間は24時間以内に収められています。物語は、テーセウスの不在とフェードルの苦悩から始まり、テーセウスの帰還、ヒッポリュトスの死、そしてフェードルの死という悲劇的な結末まで、ほぼ1日の出来事として描かれています。
* **場所の単一性:** 物語の舞台は、トロイゼーンの宮殿の中、それもほとんどが同じ場所(おそらくは謁見の間)に限定されています。場所の移動は最小限に抑えられ、観客の集中を登場人物の心理描写に向けさせる効果を生み出しています。
* **筋の単一性:** 物語の中心となるのは、フェードルが継子ヒッポリュトスに抱く禁断の愛とその破滅的な結末です。脇筋はほとんどなく、フェードルの愛の苦悩と葛藤、そして周囲の人々を巻き込んでいく悲劇の連鎖に焦点が当てられています。

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ギリシャ悲劇の影響

「フェードル」は、エウリピデスの同名のギリシャ悲劇を下敷きとしていますが、ラシーヌは単なる翻案ではなく、独自の解釈と改変を加えています。

* **フェードルの性格描写:** ギリシャ悲劇では、フェードルはより受動的で運命に翻弄される存在として描かれています。一方、ラシーヌはフェードルの内面に深く踏み込み、愛と道徳の間で葛藤する複雑な心理、そして自らの激情に苦悩する姿を鮮明に描き出しています。
* **ヒッポリュトスの役割:** エウリピデスの作品では、ヒッポリュトスは女性嫌いで傲慢な人物として描かれていますが、ラシーヌは彼をより高潔で純粋な存在として描き換え、悲劇性を高めています。
* **運命と自由意志:** ギリシャ悲劇では、登場人物は運命の力に翻弄される存在として描かれることが多いですが、ラシーヌは登場人物たちの自由意志と責任をより明確に描き出し、古典主義的な人間観を反映させています。

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心理劇としての側面

「フェードル」は、登場人物の心理描写に重点が置かれた心理劇としての側面も持ち合わせています。

* **独白と対話:** ラシーヌは、登場人物たちの内面を表現するために、独白や対話を効果的に用いています。特に、フェードルの苦悩と葛藤は、長い独白によって観客に直接伝えられ、彼女の心の奥底に迫るようなリアリティを生み出しています。
* **言葉の力:** 古典主義の美意識を反映し、洗練された格調高い韻文を用いることで、登場人物の感情の機微や心理的な葛藤を繊細に表現しています。
* **悲劇の原因:** 単なる外部的な要因ではなく、登場人物たちの内面、特にフェードルの抑圧された欲望、嫉妬、罪悪感といった心理的な葛藤が、悲劇の根本的な原因として描かれています。

ラシーヌはこれらの技法を駆使することで、ギリシャ悲劇の題材を借りながらも、人間心理の深淵を鋭く描き出す独自の悲劇世界を創造することに成功しました。

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