## ラシーヌのフェードルの思索
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愛と義務の葛藤
ラシーヌの『フェードル』は、愛と義務の間で引き裂かれる人間の姿を、古代ギリシャ神話を題材に描き出した悲劇です。主人公フェードルは、継息子イポリットに禁断の恋心を抱き、その苦悩に苛まれます。彼女はアフロディーテの呪いによって燃え上がるこの恋を、理性と道徳によって抑え込もうとしますが、抗えない運命の力に翻弄されていきます。
フェードルの苦悩は、単なる道徳的な葛藤を超えた、人間の根源的な欲求と社会規範の対立を描いています。彼女は、妻として、また王妃としての義務と、抑えきれない愛の情念との間で苦しみ、その姿は普遍的な人間の悲劇を体現しています。
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理性と情念の対比
『フェードル』では、理性と情念の対比が重要なテーマとなっています。フェードルは、自身の恋心を理性によって抑え込もうとしますが、情熱的な愛は彼女の理性を凌駕し、破滅へと導きます。
対照的に、イポリットは純粋さと理性的な思考を象徴する存在として描かれています。彼は、フェードルの愛を拒絶することで、道徳的な規範を遵守しようとします。
理性と情念の対比は、劇全体を貫く緊張感と、登場人物たちの心理描写に深みを与えています。それは、人間存在の本質的な葛藤を浮き彫りにし、観客に倫理的な問いを投げかけています。
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運命と自由意志
フェードルとイポリットの悲劇は、運命の力と人間の自由意志の問題を提起しています。フェードルは、アフロディーテの呪いによってイポリットへの恋心を抱き、抗えない運命に翻弄されます。
しかし、彼女は自身の行動に責任を感じ、苦悩の末に自ら命を絶つ選択をします。これは、運命に支配されながらも、自らの意志で行動する人間の自由を示唆しています。
『フェードル』は、運命と自由意志の複雑な関係を描き出すことで、人間の責任と選択、そして存在の根源的な問いを観客に突きつけます。