## ラシーヌのアンドロマックの批評
古典主義悲劇の傑作
「アンドロマック」は、1667年に初演されたジャン・ラシーヌ作の五幕からなる韻文悲劇です。古代ギリシャのトロイア戦争後の物語を題材に、トロイアの王子ヘクトルを殺したギリシャの英雄アキレウスの息子ピュロス、ヘクトルの妻アンドロマック、ピュロスの婚約者であるギリシャの王女エルミオン、そしてエルミオンに恋するオレステスといった登場人物たちの愛憎と葛藤が描かれます。
三単一の法則の厳守
ラシーヌは本作において、古典主義演劇の重要な規範である「三単一の法則」を厳格に守っています。
* **時間の単一性**: 劇中の時間は、登場人物たちの会話や行動から推測するに、24時間以内に収まっていると考えられます。
* **場所の単一性**: 舞台は終始、ピュロスの宮殿の一室に限定されています。
* **筋の単一性**: トロイア戦争後の英雄たちの愛憎劇という一つの筋が、脇筋を交えることなく、一貫して描かれています。
登場人物たちの葛藤と心理描写
「アンドロマック」の魅力は、何と言っても登場人物たちの複雑な心理描写にあります。
* **アンドロマック**: 夫ヘクトルと息子アステュアナクスを失った悲しみと、息子を守るためにピュロスに身を委ねなければならないという苦悩に引き裂かれるアンドロマック。彼女の悲劇的な運命は、観客の同情を誘います。
* **ピュロス**: アンドロマックへの愛と、ギリシャの英雄としての立場との間で葛藤するピュロス。彼の傲慢さと優柔不断さが、悲劇へと繋がっていきます。
* **エルミオン**: ピュロスに愛されないと知り、嫉妬と復讐心に燃えるエルミオン。彼女の激しい感情の揺れ動きは、劇に緊張感を与えています。
* **オレステス**: エルミオンへの報われぬ愛に苦しみ、彼女の言葉に翻弄されるオレステス。彼の狂気じみた行動は、劇の悲劇性をより一層際立たせます。
韻文の美しさ
ラシーヌは、フランス古典主義演劇の伝統に従い、アレクサンドラン詩と呼ばれる12音節の韻文で「アンドロマック」を執筆しました。格調高く美しい韻文は、登場人物たちの感情の起伏や葛藤をより鮮やかに表現し、作品に深みを与えています。