ラシーヌのアンドロマックの対極
古典主義 vs. ロマン主義
ラシーヌの『アンドロマック』(1667年)は、フランス古典主義演劇の代表的な作品であり、理性、抑制、規則の厳守を重視しています。一方、その対極に位置する作品群としては、18世紀後半から19世紀初頭にかけてヨーロッパを席巻したロマン主義の作品が挙げられます。
感情と主観の表現
ロマン主義は、古典主義の理性重視に対して感情、主観、想像力を強調しました。ラシーヌの『アンドロマック』では登場人物が運命や社会的なしがらみに翻弄されながらも、理性的な行動を取ろうとする様子が描かれています。対照的に、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』(1774年)のようなロマン主義文学では、主人公の激しい感情や内面的な葛藤が中心的なテーマとなります。
個人の自由と自然への回帰
ロマン主義は、フランス革命後の社会状況を反映し、個人の自由や権利を強く意識していました。また、古典主義が重視した都市や宮廷といった人工的な世界に対して、自然の力強さや美しさに価値を見出しました。ウィリアム・ワーズワスなどのロマン派詩人は、自然の中に人間の本来の姿や心の安らぎを求めました。
形式の打破
古典主義演劇は、三単一則(時、場所、 Handlungseinheit)などの厳格な規則に則っていましたが、ロマン主義はこれらの規則を打破し、自由な形式で作品を創作しました。例えば、ヴィクトル・ユーゴーの戯曲『エルナニ』(1830年)は、従来の悲劇の形式から逸脱した作品として、フランス演劇界に大きな衝撃を与えました。
これらの要素を総合的に見ると、ラシーヌの『アンドロマック』の対極に位置する作品群として、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』や、ヴィクトル・ユーゴーの『エルナニ』など、ロマン主義の文学作品が挙げられます。