## ラシーヌのアンドロマックの力
アンドロマックの人物像の力
ジャン・ラシーヌの悲劇『アンドロマック』において、タイトルロールを担うアンドロマックは、その悲劇的な状況、揺るぎない意志、そして複雑な感情表現によって、観客に強い印象を与えます。
トロイアの陥落後、ギリシャの武将ネオプトレモスに戦利品として与えられたアンドロマックは、夫であるヘクトルと、息子アステュアナクスを失った悲しみと、敵であるギリシャ人への憎悪の中で生きています。 彼女は、亡き夫への忠誠心と、息子への愛情の間で苦悩する姿を見せます。
ラシーヌは、アンドロマックの悲しみと怒りを、古典的な形式美の中で描き出しています。 彼女の言葉は、深い感情に満ち溢れているにも関わらず、常に節度と威厳を保っています。 この対比が、アンドロマックの苦悩をより一層際立たせ、観客の心を打ちます。
政治的駆け引きと愛憎劇の力
『アンドロマック』は、単なる悲劇のヒロインという枠を超えて、登場人物たちの愛憎が複雑に絡み合い、政治的駆け引きが展開される様子を描いています。
アンドロマックへの愛に苦しむネオプトレモス、彼に捨てられることを恐れるヘルミオーヌ、そして、ヘルミオーヌに恋焦がれるオレステス。 これらの登場人物たちの愛憎が、アンドロマックの運命を翻弄し、悲劇へと突き動かしていきます。
ラシーヌは、登場人物たちの心理描写に長けており、彼らの愛と憎しみ、嫉妬と復讐心を見事に描き出しています。 観客は、登場人物たちの感情の渦に巻き込まれ、彼らの運命を見守ることになります。
古典主義の美学と心理劇の融合の力
ラシーヌは、古典主義の形式美を遵守しながらも、登場人物たちの内面を深く掘り下げた心理劇を生み出しました。
三一致の法則（時間の単一性、場所の単一性、 Handlungの単一性）を厳格に守りながら、登場人物たちの葛藤と心理的な変化を緻密に描き出すことによって、普遍的なテーマである愛と憎しみ、復讐と赦しを描いています。
『アンドロマック』は、古典主義の美学と、人間の心の奥底を描いた心理劇が見事に融合した作品として、今日でも多くの人々を魅了し続けています。