## ラシーヌの『アンドロマック』の思考の枠組み
愛と義務の葛藤
『アンドロマック』は、愛と義務の間で引き裂かれる登場人物たちの苦悩を描いた作品です。トロイ戦争の英雄ヘクトールの妻アンドロマックは、夫を殺したアキレスの息子ピュロスと結婚することを強要されます。一方ピュロスは、アンドロマックへの愛とギリシャへの義務の間で揺れ動きます。 さらに、ピュロスに思いを寄せるエピールの王女エルミオンヌや、アンドロマックの息子アステュアナクスに復讐心を燃やすオレステスも、それぞれの愛と義務、そして欲望に苦しみます。
理性と情熱の対比
ラシーヌは古典主義の劇作家として、理性と情熱の対比を重視しました。『アンドロマック』でも、登場人物たちは理性に従って行動しようとしながらも、激しい情熱に突き動かされる場面が何度も描かれます。アンドロマックは、息子を守るためにピュロスとの結婚という屈辱を受け入れようとしますが、ヘクトールへの愛とトロイへの忠誠心との間で葛藤します。ピュロスもまた、アンドロマックへの愛とギリシャの安全保障との間で苦しみ、最終的には情熱に流されてしまいます。
運命と自由意志
登場人物たちは、抗うことのできない運命に翻弄される存在として描かれています。トロイ戦争の結果、アンドロマックは故郷と夫を失い、ピュロスの意志に左右されることになります。しかし、ラシーヌは運命論的な視点だけにとどまらず、登場人物たちの選択が運命を形作っていく側面も描いています。アンドロマックは、息子の命を守るために自らの命を絶つという選択をし、運命に立ち向かう強い意志を示します。
権力と復讐の連鎖
『アンドロマック』は、権力と復讐が悲劇を生み出す様を描いた作品でもあります。トロイ戦争は、ギリシャによるトロイへの侵略という権力闘争が原因で勃発しました。そして、戦争の傷跡は深く、登場人物たちの心を蝕み続けます。オレステスは、父の仇であるアガメムノンを殺した母親クリュタイムネーストラーへの復讐を果たしますが、その行為はさらなる悲劇を生み出すことになります。