ラシーヌ「フェードル」の形式と構造
フランス古典悲劇の形式の特徴
ジャン・ラシーヌの「フェードル」は、フランス古典悲劇の典型的な形式を踏襲しています。1687年に初演されたこの作品は、厳格な「三一致の法則」(時間、場所、行動の統一)に従い、劇の進行は24時間以内に限られ、主要な行動は一つの場所で展開します。さらに、行動の統一性も保たれており、余計な副次的な筋や複雑なプロットは避けられています。
五幕構造の採用
「フェードル」は五幕構造を採用しており、各幕には明確な目的があります。第一幕では登場人物の紹介と基本的な状況設定が行われ、続く幕では登場人物間の関係や葛藤が深まります。特に第三幕ではクライマックスに達し、主人公フェードルの内面的な葛藤が最高潮に達します。その後の幕では結末に向けての展開が進み、最終幕で緊張が解消されるか、悲劇的な結果に至ります。
アレクサンドラン韻律の使用
ラシーヌの詩的な表現の特徴として、アレクサンドラン韻律(フランス語詩の12音節詩行)が使用されています。この韻律形式はフランス古典悲劇において一般的であり、厳格なリズムと押韻が劇の格式高い雰囲気を醸し出しています。フェードルの台詞には、感情の高まりが直接的に反映され、リズミカルな言語が劇的な緊張感を増す手段として機能しています。
主題とモチーフの織り交ぜ
「フェードル」では、禁断の愛、罪と罰、運命といったテーマが織り交ぜられています。ラシーヌはこれらのテーマを巧みに構造化し、人物の内面と外面の葛藤を通じて探求しています。フェードルの運命的な愛は彼女の行動を動かす主要な力となり、その結果としての悲劇が不可避的に進行します。
ラシーヌの「フェードル」は、その形式的な厳格さと詩的な美しさにおいて、フランス古典悲劇の中でも特に評価が高い作品です。この作品を通じて、ラシーヌは人間の深い感情の動きと道徳的なジレンマを巧みに描き出しています。