## ヤーコブソン言語学と詩学の力
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言語の詩的機能
ロマン・ヤーコブソンは、1960年の論文「言語学と詩学」の中で、人間の言語活動における六つの機能を提唱しました。 それらは、それぞれが言語活動における異なる側面を強調するものであり、以下の通りです。
1. **指示的機能 (Referential function)**: 客観的な事実に言及し、情報を伝達することに焦点を当てています。
2. **表情的機能 (Emotive function)**: 話し手の感情や態度を表現することに焦点を当てています。
3. **間主観的機能 (Conative function)**: 聞き手に影響を与え、特定の反応を引き出すことに焦点を当てています。
4. **詩的機能 (Poetic function)**: メッセージ自体に焦点を当て、言語の形式的側面を強調します。
5. **メタ言語的機能 (Metalingual function)**: 言語自体について言及し、コードを明確にすることに焦点を当てています。
6. **交話的機能 (Phatic function)**: コミュニケーションのチャネルを確立および維持することに焦点を当てています。
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詩的機能の特異性
ヤーコブソンは、これらの機能の中で、詩的機能が文学作品、特に詩の分析において中心的な役割を果たすと主張しました。 詩的機能は、言語の形式的側面、すなわち音、リズム、韻律、イメージ、比喩などに注意を向けさせます。 詩においては、言語は単なる情報伝達の手段ではなく、それ自体が美的対象となるのです。
ヤーコブソンは、詩的機能を「メッセージにおけるメッセージの重視」と表現しました。 これは、詩においては、伝達される内容よりも、それがどのように伝達されるか、つまり言語の形式的側面の方が重要になることを意味します。 言い換えれば、詩は言語自体を前景化し、その美しさ、力強さ、複雑さを明らかにするのです。
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詩的機能と他の言語機能との関係
ヤーコブソンは、詩的機能が他の言語機能を排除するものではないことを強調しました。 実際には、詩を含め、あらゆる言語活動において、複数の機能が同時に作用しています。 しかし、詩においては、他の機能よりも詩的機能が優勢になり、それが詩を他の言語活動と区別する特徴となっています。
例えば、日常会話においても、私たちはユーモアや皮肉を表現するために、詩的機能と同様の言語操作を行うことがあります。 しかし、詩においては、このような言語操作が体系的かつ集中的に行われ、それが作品の美的効果を生み出す主要な要素となるのです。
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ヤーコブソンの言語学と詩学の影響
ヤーコブソンの言語学と詩学は、20世紀後半の文学理論に多大な影響を与えました。 特に、構造主義、記号論、叙事詩論などの分野において、彼の理論は広く応用され、発展させられました。
ヤーコブソンの業績は、文学作品を単なる作者の意図や歴史的背景の反映としてではなく、独自の構造と機能を持つ自律的なシステムとして捉えることを可能にしました。